野球場写真はイメージです Photo:PIXTA

2023年夏の甲子園で107年ぶりの優勝を果たすことができた慶應義塾高校(塾高)野球部。彼らの目標達成の秘訣は“脳からアプローチして心をコントロールする”メソッド「SBT(スーパーブレイントレーニング)」だった。本稿は、吉岡眞司(著) 西田一見(監修)『慶應メンタル-「最高の自分」が成長し続ける脳内革命』(ワニブックス)の一部を抜粋・編集したものです。

脳を落ち着かせる
「一点凝視法」

 試合中、塾高の選手が、自分のグローブやバットをじっと見つめることがありました。それはピンチの場面だったり、あるいは得点機であったりと、試合を決める大事な場面で、です。

 彼らはなぜじっと一点を見つめていたのでしょう。

 桑田真澄さんという投手はご存じでしょう。PL学園出身で清原和博選手と一緒に甲子園で大活躍し、「KKコンビ」の名は全国区となりました。1985年、巨人軍に入団しプロでも大活躍。大きな負傷からカムバックしたり、2007年には戦力外通告を受けたのちにメジャーリーグに挑戦したりと、野球への深い情熱を持った選手として、多くのプロ野球ファンに愛されました。

 桑田投手といえば、マウンド上で見せる仕草がよく話題になっていました。

 ピンチになると、マウンド上でボールを見つめてぶつぶつと何かを呟いていたのです。覚えている方も多いでしょう。

 桑田投手は読書家として知られ、事細かな人というイメージを持たれていました。だから、「ボールに向かって話しかけるなんて本当に変わった人」と面白がって報道されていたと記憶しています。

 しかし、あのボールへのつぶやきは、桑田投手の中で最高のパフォーマンスを発揮する上で欠かせない儀式だったのです。

 これは「一点凝視」と呼ばれる、集中方法です。

 どうしても注意力が散漫になる時ってありますよね。翌朝までに急ぎの書類を作らなくてはいけないのに、ほかのことをしてしまう。集中しなくてはいけないと思うのに、ほかのことに意識が向いてしまうのは、あなただけではありません。

 何かに集中したいと思ったら、何か一点をじっと見つめてみてください。3秒も見つめたら十分でしょう。

 これはスポーツ選手が積極的に取り入れている方法です。テニス選手はサーブの前にラケットを、サッカーの選手ならフリーキックの前にボールをじっと見つめる。

 塾高の選手はまさに集中するために、グローブやバットを見つめていたのです。そして、自分を鼓舞する言葉を心の中でつぶやいていました。

 メンタルの動揺は、パフォーマンスに悪影響を及ぼします。たとえば自分の失投のせいでノーアウト満塁のピンチに直面した投手が、その後の打者にいいボールを投じられることはまれです。