しかし数日後、連休明けに、病院で亡くなられました。

 あのまま、自宅で診療させていただいていても、結果は同じだったのかもしれません。

 でも、本人とご家族にとって、どちらがよかったのか……。ぐるぐると考えはめぐり続けました。

 本人が「覚悟を決める」のは、わりと簡単だと思います。1人でじっくり考える時間を持つことは、可能でしょうから。

 しかし、ご家族は、そうではありません。ご家族と、ぜひお話しなさってほしいと思いました。

 ふだんから、悪くなったらどうしたい、死ぬ時はどうしたい、というお話をしていてほしい。「急にそんなことを言われても……」とならないように、ふだんから、何度でも繰り返し、そういう話をしていてほしいと思いました。

 そうすれば、いざという時に、ふだんからのご希望のとおりに対応させていただくことができるからです。

 このことがあって以来、さまざまな「出会い」をご紹介するようになりました。

 みなさんの考えるきっかけ、話をするきっかけにしていただけたらと思ってのことです。

最初から在宅緩和ケア希望で
受診されたOさん(大腸がん)

 Oさんは81歳。

 どうも最近調子が悪い、と、自宅近くの医院に通院されていた男性でしたが、ある日、当院を受診されました。

「最期は自宅で」

 今かかっている医者に、そう言うと、「対応できない」と言われたとのこと。

 それならもう医者を替える、と、本人がネット検索で当院を見つけたそうです。

「最後の痛いのだけ、何とかしてもらいたい」

 はい、わかりました、その時はお任せください。

 Oさんはいつもパリッとした服装で外来にいらしていました。服装の乱れはなく、毎回元気よく通院されていました。

 それから半年が過ぎたところで、Oさんの食欲がなくなりました。

 外来で、「長年、毎日、コップで1合の牛乳が飲めていたのに、飲めなくなってきたので、私はもうあと1カ月だと思います」と言います。

 病院には行かない、というのを何とか説得して、C病院の検査だけ、ということで受診していただきました。

 結果は大腸がんの疑い。

 診断を確定するには、精密検査が必要なのですが、精密検査も手術も、Oさんは拒否されました。

「帰宅後、病院の先生から電話がかかってきて、手術をしたらもっと長生きできると言われたんじゃが、もう病院はええ、家におる」と。

 ご家族とも話し合っていただきましたが、本人は頑固で、言い出したら聞かないから、本人の言うとおりにするしかありません、という結論になりました。

 それ以降は、お住まいのマンションへ訪問診療です。

「あと1カ月だから、介護保険はいらない。ベッドも借りない。わしはこの布団がええんじゃ」