早い段階で「最期は自宅で」という
希望を伝えることが大切

 では、おなかの診察をしますから、横になっていただけますか、というと、Oさん、いきなり立ち上がって、ズボンのベルトを外してズボンを脱ぎ、きちんとたたんで枕元に置き、掛け布団を足元に三つ折りにしてたたんでから、横になりました。

 それから、おなかを押さえて診察をします。ふつうの痛み止めでは効かなくなってきたので、医療用麻薬の飲み薬を開始です。

 その次の訪問診療では、もうベルトのない、ジャージのズボンでした。

 最初は触れなかったがんの塊が、みるみる大きくなり、診察ではっきり触れるようになってきました。かなりの進行速度です。

 近いうちに内服が困難になることが想定されたため、早めに貼り薬の鎮痛薬(医療用麻薬)の導入です。そのころには、パジャマの上下でした。

 結局は痛みも出てきたのですが、痛い・苦しいという期間はほとんどなく、痛みはうまく抑えることができました。

 Oさんはそのまま、自宅で亡くなられました。

 Oさん、ご自分の最期が遠くない、ということを、どこかで感じておられたのでしょうか。

 最初から(がんの診断がつく前から)、在宅緩和ケアを希望されて受診される方はまだ珍しいですが、Oさんは、その最初の診察日のご希望どおりの結末になりました。

 Oさんの場合、「最期は自宅で」と思った時点で、かかりつけ医にご自分の希望を伝え、対応してもらえるかどうか聞いた、ということが、重要なことでした。

 もし、いよいよお別れが近くなったというその時になってから、「当院では対応しません」と言われたのでは、「最期は自宅で」という希望が、かなえられたかどうか……。

 早い段階で、ご自分の希望を伝えて、それに対応してもらえるのかどうかを確かめておくことが、安心につながります。

「最期まで自宅で」をかなえてくれる医師の探し方としては、Oさんのように自分でインターネットで探すこともできるのですね。