振り返るとバブル崩壊後、1990年代後半から2012年までの日本経済は「デフレ」が問題だった。第2次安倍晋三政権の下で2013年3月に日銀総裁に就任した黒田東彦総裁(23年4月退任)は、大胆な「量的・質的金融緩和」で市場参加者のデフレ期待(あるいはゼロインフレ期待)をマイルドインフレ期待に転換し、2年でインフレ目標2%を達成することを掲げた。
これは一種のショック療法的な効果も狙った政策であり、金融市場の参加者には一定のインパクトをもたらし、円高修正と株価上昇が起こった。しかし物価と賃金という実体経済面では「デフレではない状態」は実現したものの、インフレ目標2%は実現できないまま、当初の見込みを超えて超金融緩和政策が長期化した。
足元の消費者物価上昇率(総合)は前年同月比2.7%(3月)で、過去2年間は賃金上昇率が物価上昇率を下回る状態が続いた。筆者も今の賃金上昇率を上回るインフレが国民的に不人気であることは承知しているが、マイルドなインフレがマクロ経済にもたらす効能は大きい(参考:「それでも日本にはインフレが必要な訳」2022年7月20日掲載)。
しかし、ようやく今年の春闘の結果集計では、定期昇給を除いたベースアップが+3.6%となり、うち組合員数300人未満の中小組合でもベースアップは+3.3%となった(連合、第4次集計結果、4月18日)。
ベースアップの実現が統計データで確認できるのは今年夏頃であろうが、この春闘動向を見て、今年3月に日銀は「賃金と物価の好循環」を伴う「2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」と表明。その結果、2013年以来の「量的・質的金融緩和」とその後の追加的な金融緩和政策を終焉し、短期政策金利の操作による伝統的な金融政策に回帰することを発表した。
しかし、20年以上も実現できなかったことが、なぜ今実現したのだろうか。それは持続的なのだろうか。今回はこの点を考えてみよう。