「ブタ投資家」が通貨安で大損するワケ『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第88回は、強欲な「ブタ投資家」の末路を語る。

「ブルはベアに勝てない」は本当か?

 主人公・財前孝史は、FX(外為証拠金取引)で勝負を仕掛けてきた藤田家の御曹司・慎司の取引手法が下落局面でリターンを狙うベア(弱気派)と知る。初心者の財前は値上がりで堅実にもうけるブル(強気派)で、対照的なスタイルのふたりの対決となる。

 ブルとベアの違いはマーケットの本質に根差している。株価を例に取ると、上昇相場は比較的値動きが緩やかで、相場が下げに転換するとスピードが加速する傾向がある。これはどの時代、どの国でも共通する株式市場のクセだ。その極端な例がバブル相場で、株価は陶酔感によって非合理的なレベルまでジワジワと上がり、夢が覚めると暴落する。

 作中では「ブルはベアに勝てない」という解説がなされるが、そうとは限らない。希代の投資家ウォーレン・バフェット氏は長期で「買い」を保つスタイルで巨万の富を築いている。

 株式相場は超長期では右肩あがりなので、ショート(空売りなど)で儲けるベアは短期勝負が基本になる。ショートを維持するのはコストがかかるし、「バブルだ」と確信していてもそれがいつ弾けるかは誰にも分からない。英ポンドやアジアの通貨危機、リーマン・ショックに繋がった2000年代の信用危機など「ビッグショート」で儲けたケースはあるものの、きわめて稀だ。

 下げ相場で利益をあげるベアになるのはリスクも難易度も高い。それより、個人投資家が心掛けた方が良いのは「弱気相場でブルになる」ことだ。株価急落時は、誰でも「もっと下がるのでは」という恐怖にかられる。その中で冷静になり、割安だと思えるなら逆張りで買いを入れる。

「悲観は友、陶酔は敵」と公言するバフェット氏の手法がまさにこの逆張りで、実際、2008年の金融危機の真っただ中に米大手銀から極めて好条件の増資案件を引き受けている。

強欲なブタの運命とは

漫画インベスターZ 10巻P182『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 バフェット氏の域まで行けなくても、買いの好機ではないかと思考が向かうだけでも、急落局面で慌てて売ってしまう失敗を避けられる。

 このコラムで以前紹介したように、私は積立投資とは別枠で、少額ながら「暴落時の待機資金」をキャッシュで貯めている。出動するのは稀でパフォーマンスへの影響は軽微だが、ピンチをチャンスととらえるマインドを作る予防薬として有効だ。

 最後に私のお気に入りのブルとベアにまつわるウォール街の格言をご紹介しよう。

“Bulls Make Money, Bears Make Money, Pigs Get Slaughtered.”

 日本語に直せば「ブルやベアが儲けることはあるが、ブタは屠られる」といったところだろうか。ブタは貪欲を指す。意地汚く利益を追いかける投資スタイルは、最後にはやられてしまうという警句だ。

 同じように、貪欲な投資家をブタになぞらえた英語表現にイールドホッグ(yeild hog)がある。直訳すると「利回りブタ」。高利回りに目がくらんでリスクを軽視する投資家を指す蔑称だ。高金利につられて新興国通貨を買い、通貨安で利回り収入以上の損失を被る、というのが典型的なパターンだ。

 ブルで行くか、ベアで臨むか。投資スタイルは人それぞれだが、貪欲はいつか身を滅ぼす。

漫画インベスターZ 10巻P183+P184『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 10巻P185『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク