三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第49回は、今年から使い勝手が大幅にアップした「新NISA」の心得を説く。
利益が出た時こそ要注意
起業家のリッチーこと日下部剛は主人公・財前孝史の出資の申し出を断る。「勝ち負けを求めるヤツ」は短期のリターンに目が向かいがちで、一緒に大きな目標に挑めないと断じるリッチーは、財前に「投資をするなら大きな視点でモノを見ろ」と説く。
2024年からNISA(少額投資非課税制度)が刷新され、投資家のすそ野が一気に広がりそうだ。これからデビューという人にとって、リッチーが財前に語る「勝ち負けにこだわるな」というアドバイスは大いに参考になるだろう。
投資を始めると2つの「勝負」が気になるものだ。1つは無論、自分自身の損益の勝負。投資で利益が出ているか、損が出ているかは、気にするなという方が無理だろう。
注意したいのは利益が出たときの心理的変化だ。ある程度の利益が出ると、損失を嫌う人間の本性もあいまって、焦って「勝ち逃げ」つまり利益確定をしたくなるものだ。
そこで、大きな視点を持つというアドバイスが生きてくる。なぜその投資をしたのか、経済やマーケット全体を見渡してその商品は手放すべきタイミングなのか、損益を離れて冷静に考える。
そもそも、投資の損益とは、過去の買い値との比較でしかない。あなたにとって一番大事なのは、現在の時価に基づく資産評価額と、保有する投資商品そのものの本源的価値でしかない。
その時点でもうかっていても、損していても、それらが変化するわけではない。投資に限らず、過去にとわられ、今の自分がコントロールできないものをどうにかしようとするのは、時間と労力の無駄で、ろくなことにならない。
新NISA、2つ目の落とし穴
2つ目に気になるのが「他人との勝負」だ。自分が利益を上げていても、周囲の誰か、あるいはネット上の有名人や匿名アカウントと比べてリターンが見劣りしていると、負けたような気分になる。自分も同じように、と慣れない手法や商品に手を出したり、過度なリスクを取ったりすれば、痛手を被りかねない。
投資は、誰かの得が誰かの損になるゼロサムゲームではない。他人がどれだけリターンをあげるかは、あなたとは関係ない。コントロールできないものに執着するべきではないというゴールデンルールを思い出そう。
インデックス投資か、アクティブ投資かという論争も「勝ち負け」にとらわれがちなワナだと私は考える。
コストか、過去の運用成績か、ファンドの投資先選びの哲学か、理由は人それぞれだろうが、投資商品の選択はあなた自身のものであり、その結果もあなたが受け止めるものだ。他人の投資先や他の選択肢と比べて勝ったから(あるいは負けたから)、その投資が成功(あるいは失敗)だったか決まるわけではない。
ちなみに私自身は新NISAの積立投資では、日本株はアクティブファンド、海外株はインデックス連動型商品を選んでいる。勝ち負けは関係なく、「分からないものには投資しない」という原則を守った選択だ。
運用成績がビジネスや個人のキャリアを左右するプロと違って、NISAを含む個人の投資や資産形成は「勝ち負け」を決するようなものではない。「ほかの誰かよりうまくやってやろう」という発想は捨てた方がいい。