社長の仕事は店舗を運営することではない。

 財務を見ながら、組織をつくり、戦略を立て、リーダーシップを発揮する。いかなる場面でも社長としてのふるまいを求められる。ときには、金融機関などとも交渉しつつ、日々飛び込んでくる問題に対して粘り強く傾聴し、解決方針を与える。

 諸沢さんが力不足だというのではない。人間だれしも、アルバイト経験だけでは社長を務めるには、経験値がどうしても不十分なのだ。

 だが、それをもって「今回の抜擢は誤りである」とするのは、答えを急ぎすぎている。

 誤解のないよう、私の結論を先に述べるなら、今回の抜擢はたいへん理にかなった、よい人事であると評したい。

「一人で全てをこなすわけではない」
社長を支えるチームが大事

「社長とはどういう存在か」をめぐる経営学の研究は、現代ではさらにもう1ステップ、進化している。

 それは、「社長は一人で上記の全てをこなしているのではなく、“トップマネジメントチーム”として仲間とともにこなしているのだ」ということ。私たちは、諸沢さんを支えるチームにこそ、注目しなければいけない。

 ソニーは、井深大と盛田昭夫のコンビで羽ばたいた。ホンダは、本田宗一郎と藤沢武夫。ヒューレットとパッカード。ジョブズとウォズニアック――。

 社長の仕事をするのは一人ではない。よく考えれば当たり前のことだが、私たちは社長を支えるチームにまで視野を拡げなければならない。

“アッパーエシュロン”(上位階層)理論として知られる、現代経営学の基本理論である。

 スカイスクレイパーのマネジメントチームはというと、自らも20代で起業し、年商20億円にまで同社を育てた創業社長、西牧大輔さんが会長として引き続き代表権を有して会社に残り、諸沢新社長を助けていくことになる。その下に、常務取締役以下、役員ががっちり脇を固めている布陣を見て取ることができる。

 西牧さんは自身のブログを日々つづられているが、それを見る限り、理念を強く持ち、それを実行するタイプのリーダーであるらしい。従業員からも、取引関係からも信頼の厚い人である様子がうかがえる。

 その西牧さんが、自分の理念を継いでくれる人として、諸沢さんを抜擢し、引き続いて自らがつくった経営チームとともに支えていく――そうした構図が見えてきたならば、今回の人事、合点が行くのではないか。

 前社長の西牧さんが自分の経験を踏まえ、若い人に活躍してもらいたいと願って作った、“アッパーエシュロン”。

 しっかり機能していくかどうかはもう少し様子を見なければいけないが、少なくとも、現時点で評するならば、そこには理念があり、また破綻をきたさないように考えて設計されたものとして、否定的にとらえられる必要は全くないものだと思う。

 これからが、楽しみである。同社の店舗は私の住む県にもあるらしいので、ちょっと車を飛ばして、なすカレーでも食べに行ってみたい。