写真:バイデン大統領バイデン大統領 Photo:Win McNamee/gettyimages

今回も「ラストベルト」が
大統領選の勝敗を決する

 5月14日、バイデン大統領は鉄鋼・アルミニウム製品やEVなど複数の品目に対して、中国からの輸入関税を引き上げる方針を発表した。バイデン氏は中国の過剰生産などを問題視した政策と主張するが、11月の大統領選を見据え、国内産業の保護をアピールする姿が透けて見える。これに先立って、大統領選で戦うこととなるトランプ前大統領が、政権奪取後に大幅な関税引き上げ策をとることを示唆したことへの対抗措置との見方もできる。

 保護主義的な政策が競い合われているのは、大統領選で勝利するために、民主党と共和党の支持が拮抗する州(スイングステート)における支持拡大が必須であることと無関係ではない。これは、全米50州のうち、多くの州で共和党と民主党のどちらが優勢かおおむね決まっており、残りの少ない「スイングステート」の支持を両党で取り合う構図が続いていることが背景である。

 スイングステートは大統領選ごとに少しずつ変化してきたが、今回の大統領選では、ペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州、アリゾナ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、ネバダ州の合計7州をスイングステート見る向きが多い。

 そして、スイングステートの中でも、ペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州の旧工業3州の動向に注目が集まっている。これら3州は、「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域に位置し、自動車や鉄鋼といった製造業が盛んであった経緯がある。

 ラストベルトは、2016年の大統領選でトランプ氏が勝利を決める原動力となった。すなわち、トランプ氏は、失われた労働者の権利を取り戻すとして、「アメリカファースト」を掲げ、各国への関税引き上げなど保護主義的な政策を公約にラストベルトで支持を拡大したことで、下馬評を覆して民主党のクリントン氏に勝利した。

 これに対して、民主党は、2020年大統領選で、労働者や組合からの支持に強みを持つバイデン氏を候補者として選出し、ラストベルトの支持を取り返す形で、大統領選に勝利した。このように、ラストベルトは、トランプ氏が大統領選の勝負を決める地域として見出し、その後、民主党と共和党の支持獲得の争いが続くことで、スイングステートとしての存在感を保持している。