自分が心地よいと思える服装が一番なんだよ。自分を見失うと創造力は湧いてこない

 答えはある日、私と同じ疑問を持つファッション記者が、当時ルイ・ヴィトンのメンズを担当していたキム・ジョーンズにインタビューをした際、明らかになりました。「なぜいつも同じような服装をしているのか」という質問に対し、キムはこう答えたのです。

「自分が心地よいと思える服装が一番なんだよ。自分を見失うと創造力は湧いてこない」

 側で聞いていた私はびっくりしてしまいました。ファッションのプロ中のプロ、流行を作り出す張本人が、自分のためには「心地よい」服を選ぶと言うのです。それはややこしいドレスを避け、「これが一番よ」、といつも同じような黒のワンピースを選ぶ広報部長のマダムにも通じるところがありました。

自分を知り尽くしている人しか行き着くことのできない、究極の境地

 その割り切り感は、自分を知り尽くしている人が行き着く境地です。もっと言えば、自分を知り尽くしている人しか行き着くことのできない、究極の境地です。

 私はそれまで、流行をうまく取り入れ、いろいろなルックスを着こなしている人が「オシャレな人」だと思っていました。どうやら、根本から間違っていたようです。

 本当にオシャレな人は流行には見向きもせず、「自分にとって何が一番心地よいか」というスタンスで服を選んでいるのです。ましてや、「周りに合わせる」などという発想は論外。未熟さを思い知らされた私ですが、ちょっとほっとしている自分がそこにいました。

(なんだ、そんなことでいいのか!)

 肩の力が抜けたのです。周りに溶け込む必要はない。張り合う必要もない。自分にとって心地よいモノってなんだろう。これだけ考えればいいのです。

自分の心に耳を傾けてみてください

 自分の肌に合う色。自分の心が和む模様。手に取ってみてほっとする、あるいはワクワクする素材。着てみてしっくり来るモノ、反対に抵抗感があるモノ。それは自分にしかわからないことです。誰も教えてくれないことです。

 流行に惑わされることなく、周りの意見に流されず、自分の心に耳を傾けてみてください。自分の本能と感覚を大事にしてください。そして「これ」というモノが見つかった時は、多少季節外れだろうが、場違いだろうが、それを着てみてください。人からダサいと言われようが、「おかしい」と言われようが、それを貫いてみてください。人の意見より自分の心地よさを優先させてください。

「自分らしいスタイル」というものはすぐには見つかりません。私の試行錯誤はまだまだ続くのでした。けれども自分を主体にして洋服やアクセサリーを選ぶようになってからは、不思議なほど気がラクになりました。同僚の恰好を真似ることもなくなりました。

 自分なりの生き方。それは何よりもまず、自分の感性を磨くことから始まります。

※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。