ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務しPRトップをつとめ、「もっともパリジェンヌな日本人」と業界内外で称された藤原淳氏が、パリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案したのが、著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。著者が言うパリジェンヌとは、「すっぴん=ありのままの自分」をさらけ出し、人生イロイロあっても肩で風を切って生きている人のこと。この記事では、本書より一部を抜粋、編集しパリジェンヌのように自分らしく生きる考え方をお伝えします。

パリのファッション・デザイナーがいつも同じ服を着ている理由Photo: Adobe Stock

なぜ、彼女はいつも同じようなワンピースを選んでいたのか?

広報部長のマダムはスラリとした体型です。真っ白になった髪の毛は染めることなく、ボーイッシュな体型にピッタリのショートヘアに刈り上げています。その銀髪が洗練されていながら、どことなくキュートでもあり、独特の魅力を放っています。

 広報という職業柄、イベントやパーティー、食事会などの公の席には、必ず自社ブランドの服を身に纏わなければなりません。そんな時、彼女は担当の部下が勧める最新のスーツやドレスを退け、いつも同じような細身の黒いワンピースを好んで着ていました。ファッション・ショーにも登場し、流行の先取りをするようなドレスには目もくれません。

 そのような一点物を着こなすことができる体型をしているだけに、私はいつも、
(勿体ないなあ……)
と残念な気持ちで広報部長を遠巻きに見つめていました。

 なぜ、彼女はいつも同じようなワンピースを選んでいたのでしょう。その謎は、ファッション・ショーの舞台裏でインタビューのお手伝いをしている時に解けました。

ファッション・デザイナー本人は驚いたことに、案外地味な服装

 ルイ・ヴィトンのように、元々トランク店だった老舗ブランドがなぜ、スター級のファッション・デザイナーを雇い、巨額の投資をしてファッションの世界に足を踏み入れたか、不思議に思ったことはありませんか。それはひとえに、時代を先取りするためです。古き良きものに新しい要素を加えることによって、どの時代でも最先端をいくデザイン性を備えた新商品を提供し、消費者の購買意欲をくすぐるためです。

 そんな使命を一手に引き受けるのがファッション・デザイナーです。彼らは常に既成概念を問い、時には壊し、新しいモノや考え方を世の中に送り出していくことを求められます。一般人がファッション・ショーを見ると、奇抜に思えたり、キレキレに映るデザインがあるのもこのためです。

 ではファッション・デザイナー本人がキレキレの恰好をしているかといえば、そうではありません。驚いたことに、案外地味な服装をしています。ルイ・ヴィトンのレディース・デザイナーのニコラ・ジェスキエールは黒のズボンに黒の革ジャンが定番ルックです。ディオールのメンズ、そしてフェンディのレディースを担当している気鋭のデザイナー、キム・ジョーンズも、まるで制服のようにいつも同じような恰好をしています。なぜなのでしょう。