「すぐにいなくなる新入社員」に共通する特徴とはがあります。
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
社会人なりたての注意点とは?
「同期のほうが自分より頑張っているな」
「学生時代の友人がすごくキラキラして見えるな」
昨今はSNSの影響もあってか他人と比べやすい環境が整っています。
実はこの「他人と比較してしまう気持ち」、心理学では「社会的比較」とも呼ばれていて、人間の精神に少なくない影響があるとわかっています。
今日はそんな「社会的比較」について共有させてもらいます。
この「社会的比較」には、周りと比べて落ち込むネガティブな面と、人間の自尊心を保ったり「自分に価値がある」と感じたり、向上心を刺激してモチベーションを上げてくれるポジティブな面の両方があります。
しかし、社会人になりたての時期は、この「社会的比較」がうまくいかず、ストレスの原因になることが多いです。
特に新入社員は、他人と自分を常に比較してしまうことで、自分の成長を見失いがちです。
そんな「社会的比較」を無自覚に行い、孤独を感じてしまう人には2つの特徴があります。
特徴①「他人の比較を『無自覚に』してしまう」
社会人で他人と自分を比較することは、ほとんどの場合、マイナスにしかなりません。
そもそも前提条件が異なり、スキルの習得の向き不向きといった問題や、自分より仕事を知っている人たちとたくさん出会ってしまい、彼らと自分を比較して落ち込んでしまいます。
「社会的比較」によって「よし、自分もがんばるぞ!」とやる気になるうちはまだ良いですが、壁を感じたり疎外感によって気持ちが折れてしまうこともあります。
自分のポストに以前いた人と比べられたり、周りの人と比較したりと他人の目が気になると止まらなくなるかもしれませんが、社会人では他人と比較する以上に「過去の自分」を乗り越えていく実感が大切です。
昨日の自分よりも今日の自分がほんの少しでも良くなった、1年目よりも2年目の自分のほうが良くなっている、成長していると感じたら、ときには自分自身を褒めてあげましょう。
無自覚に自分を追い詰めている人ほど、「自分を褒めること、ゆるめること」は難しいと感じるかもしれませんが、モチベーションを高めるための大切な取り組みです。
特徴②「羞恥心が強い」
羞恥心もまた「社会的比較」によって強まります。
新社会人になりたての新入社員は、仕事のことなんて何もわからないのが当然です。
多くの場合、周囲もそれを前提にしているため、最初のうちの失敗や間違いは、きちんと正してもらえるように素直に教えてもらう姿勢を示すことが大切です。
そのため、社会人では「報告、連絡、相談」が大切なのですが、羞恥心が強すぎてなかなか相談できず、勝手に孤独になって「社会的比較」を始めてしまいます。
社会人では知識量だけでは評価されず、むしろ「何を知らないか」を自覚していることのほうが重要な面もあります。
知らないことやわからないことが聞きやすいのも新社会人の特権です。
失敗や間違いを恥ずかしいと感じているなら、「小さなお願い」を周りの人にしてみましょう。
羞恥心は周囲の視線や、自分の緊張を過度に自覚してしまうことから強くなります。
それを抑えるためにも、意図的に小さなお願いを周りにしてみて、職場の反応や相談しやすい人を知っておいたり、他人を頼るための心のハードルを下げておくと、いつかお返しするくらいの気持ちで頼る姿勢をとることで、緊張もほぐれて羞恥心も小さくできるでしょう。
「社会的比較」をコントロールする方法
「社会的比較」をしてしまう新人社員はどうすれば働き続けてくれるでしょう?
もっとも大切なのは、社員を「たくさん褒める」ことです。
仕事に対する前向きな姿勢や、恥ずかしい思いをしてもがんばる姿勢など、業務以外のことでも、とにかく仕事に不安がある時期ほど褒めて安心させること、それを大切にしましょう。「社会的比較」は他人と自分を比較してしまうことでネガティブな効果を生じます。
しかし、過去の自分に比べて少しでもできるようになったこと、良かったことを褒めることでポジティブな効果を生じさせることができます。
「褒めるところがない新人はどうするのか?」という質問がよくありますが、その時は感謝の気持ちを伝えるだけでも大丈夫です。
また、孤独感が強くなかなか上手くいかない場合には「視野を広く持つ」ように誘導することも大切です。
人間は孤独感を感じるほどに「社会的比較」をしてしまい、思考が偏り視野が狭まってしまいます。そのため、周囲の方を頼ったり、他の職場や別の働き方を模索したり、本や勉強会などで価値観を広げ、「これだけ良くなった」という実感を起こさせ、モチベーションを高めることにもつながるでしょう。
まとめ
新人社員が早期に退職するのを防ぐためには、彼らが他人と自分を比較せず、自分と比較して高められる環境を作り出すことが重要です。
そして、過剰なくらいに褒めることを意識する、それだけで成長意欲を引き出すことにもつながります。
始まったばかりの社会人、どうしても「社会的比較」はしてしまうものなので、周りから支援する意識を持つことが大切です。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』の著者・精神科医いっちー氏が特別に書き下ろしたものです。)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。