リーダーシップの世界的権威、「世界一のメンター」として知られる、ジョン・C・マクスウェル。著作累計2600万部を誇るベストセラー著者の彼が、彼が偉大なリーダーたちが実践しているという21の法則をリストアップしたのが、『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』だ。「あなたの生き方を一新するために、この本を使ってほしい」とメッセージされた一冊のエッセンスとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

「人の上に立つ」ために本当に大切なことPhoto: Adobe Stock

優れたリーダーになるための21の法則

 フォーチュン500の有力企業や陸軍士官学校など、ビジネス、軍、政治、スポーツ、国際協力はじめ、あらゆる分野から絶大な信頼と人気を得ているリーダーシップの世界的権威、ジョン・C・マクスウェル。

 部下を心から従わせているリーダー。人々を引きつけ、物事を成し遂げるリーダー。そんなリーダーを一人でも多く輩出しようと、彼が記した一冊が『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』だ。アメリカでは1999年に刊行され、たちまちベストセラーとなり、日本でもすでに10万部が発行されている。

 本書に掲載されているのは、優れたリーダーになるための21の法則だ。しかもそれは、偉大なリーダーたちから導き出されたもの。

 テーマとして「人格」「カリスマ性」「不屈の精神」「コミュニケーション能力」「能力」「勇気」「洞察力」「集中力」「与える心」「独創性」「聞くこと」「情熱」などが挙げられ、それぞれに格言がつけられる。

 たとえば、こんな具合だ。

[問題解決力]あなたの夢の実現を、何にも決して邪魔させてはいけない。(P.147)
[対人関係能力]人びとは、あなたがどれだけ気遣ってくれているかを知るまでは、あなたの知識がどれだけ豊富であろうと意に介しない。(P.159)
[責任]リーダーは何でも手放すことができる。ただし、最終的な責任だけは手放すことができない(P.169)

 そして、説得力ある解説が、21の法則すべてに展開されるのである。

男性の子どもっぽさを、女性はすぐに見抜く

 掲げられたテーマそのものは一見、リーダーシップに必要なものとしては、普通のものに思える。しかし、これが偉大なリーダーをモチーフに詳しく解説されるとき、印象が変わる。

 例えば、[心の安定]。

 格言は、「自分一人ですべてをやろうとしたり、功績がすべて自分にあると主張したりする人間は、すぐれたリーダーになれない」。

 モチーフに使われている偉大なリーダーは、イギリスの元首相、マーガレット・サッチャーである。第二次世界大戦後、長く苦しんだイギリスの再生に、大きな役割を果たした人物だ。

 レーガン大統領の時代、先進7カ国のリーダーが経済政策を議論するためにホワイトハウスに集まった。会議の場でカナダのピエール・トルドー首相が「全部間違っている。そんな政策ではうまくいかない」と言ってサッチャー首相を激しく非難した。

 サッチャーは頭を上げたままトルドーの話を最後まで聞き、その場から立ち去った。

レーガンはその後でサッチャーのもとに歩み寄ってこう言った。
「マギー、彼はあなたに向かってあんなふうに話すべきではなかった。彼は本当にどうかしているよ。なぜ彼にあんなことを言わせたままにしたんだい?」
サッチャーはレーガンの顔を見てこう答えた。
「男性が子どもっぽいことをしていると、女性はすぐにそれを見抜くものよ」
(P.180)

 このエピソードは、サッチャーの人となりをはっきりと表していると著書は記す。世界のリーダーとして成功を収めるには、強くて精神的に安定している人物であることが必要条件になるのだ。その人物が女性であれば、なおさらである。

 サッチャーは生涯を通じていつも困難を乗り越えてきた。オックスフォード大学では化学を専攻したが、その分野は男性が優位を占めていた。大学の保守派協会に所属し、女性会長になる。その後、弁護士資格を得て、税法を専門として開業する。

 男性が圧倒的な地位を占めていた政界入りを果たしたのは、1959年のことだ。国会議員に選出されたのである。分析力があり、明確に意見を述べ、批判されても冷静さを失わないことから、討論会では対立政党とのディベートを任せられることがよくあった。

サッチャーは強い決意と高い能力を評価され、閣僚の地位をいくつか経験した。教育科学相を務めていたころ、「イギリスで最も人気のない女性」というレッテルを貼られた。しかし、彼女は非難を浴びても屈することなく努力を続け、人びとの尊敬を得た。そしてついに、イギリス初の女性の首相という地位にまで登りつめた。(P.181)

 そのベースこそ、心の安定だったのだ。

成功を目前にして自滅してしまう人

 サッチャー首相といえば、常に批判の矢面に立っていたという印象がある。国営企業の民営化、労働組合の役割の限定、フォークランド紛争への派兵、対ソ保守政策の維持。さまざまな議論を巻き起こすことになったが、結局、乗り切ることになった。

どんなに激しく叩かれても、自分の確信を貫き、自尊心を失わなかった。サッチャーはかつてこんなふうに言っている。
「私にとってコンセンサスとは、誰も信じないものを求めて信念と主義と価値観と政策をすべて捨てるプロセスのように思えます。『私はコンセンサスを支持する』というお題目を唱える人が、これまでどんな偉大なことをなしえたのでしょうか」
(P.181-182)

 サッチャーは自分のリーダーシップに確信を抱いていた、と著者は記す。自分と自分の信念について疑念を抱いていなかった。だから、リーダーシップをとるうえで精神的に安定していたのだ、と。

 これは偉大なリーダーすべてに当てはまるという。そして、そうでない人には驚くべきことが起きてしまう。

セルフイメージと一致しないレベルで生きることは誰にもできない。自分を敗者と見なす人にとって、負ける方法を見つけるのは簡単だ。そういう人は、精神的安定をおびやかすほどの成功を目前にすると自滅してしまうのだ。これは、部下だけでなくリーダーについても言える。(P.182)

 だから、精神的な安定は重要なのだ。精神的に不安定なリーダーは、本人はもとより、部下にとっても危険な存在となりかねない。リーダーという立場は、人格的な弱点を増長するからだ。

 そして、精神的に不安定なリーダーの共通点を4つ掲げて解説する。

 1. 人びとに安心感を提供しない
 2. 与えるよりも受け取る方が多い
 3. すぐれた部下を牽制する
 4. 組織の足を引っ張る

 一方で、自分を安定させるために取り組むべきことも本書のなかでは提案されている。

「鉄の女」と呼ばれたサッチャーは、3期連続で首相に選出された。近代イギリスでそれをなしえたリーダーは、彼女以外にはいない。

 だからこそ、サッチャーをモチーフにした法則は、強く心に残る。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。