1988年(昭和63)には大手メーカーの味の素が市場に参入。発売された「瀬戸のほんじお」の原料は輸入の塩田塩ではなく、イオン交換膜法の「専売塩」にニガリを添加したものだったが、これも「自然塩」のくくりで受けとめられた。

漫画『美味しんぼ』も参戦した
「専売塩」「自然塩」論争

 はたして「専売塩」と「自然塩」とで違いはあるのか。

 商品テストで有名な『暮しの手帖』もこの問題を取りあげている。第2世紀81号(1982年)では「専売公社の塩といわゆる自然塩」と題し、「専売塩」と「自然塩」(伯方の塩、赤穂の天塩、シママース)との味を比較した。結論としては、サラサラとした「専売塩」としっとりとした「自然塩」で使い勝手の差はあるものの、味の差は微妙だとしている。また、塩に含まれているカルシウムやマグネシウムは「ごくごく微量」で、わずかな違いのミネラルを気にするのは「木を見て森を見ず」だとしている。

 完全天日塩に軍配を上げたのは、グルメ漫画の金字塔『美味しんぼ』(原作・雁屋哲、作画・花咲アキラ、小学館)だ。

 33巻の第2話「塩梅〈後編〉」(1992年)では、山岡がすし職人らを連れて、高知県で天日製塩を行う「生命と塩の会」を訪ねるエピソードがある。なお同会は、前述の日本食用塩研究会の製塩試験場で学んだあとに設立された会で、「海の精」と同じように会員制配布を行っていた。

 山岡は製塩場を歩きながら、ひとしきり日本の塩業史を解説したあと、同会の「自然塩」とイオン交換膜法でつくられた専売公社の食卓塩とを同行者に食べくらべしてもらう。一同は「自然塩」を舐めて「柔らかな味」「ふくらみがあって、甘ささえ感じる」などと褒めた一方、食卓塩を口に含んだ途端に「きつい」「塩辛い」と顔をしかめる。そこで山岡は「現在の効率第一主義の電気化学的製法が、日本の塩をこんな味にしてしまったんだ」と嘆く。

 山岡は、特殊用塩として市販されている「自然塩」に対しても鋭く批判する。「多くは外国から輸入した工業用の塩を生成して、微量成分やミネラルなどを添加して、自然塩に近づけたもの」で、「塩らしい塩をなんとか食べたいという熱意の表われだろうけど、自然塩と呼ぶのは無理があるね」と苦言を呈している。