日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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※本記事は、シリーズ記事である『職場にいる「圧倒的に仕事ができる人」が大切にしているたった1つのマインドセット』の後編です。

「問題ばかり起きる職場」でどのようにきっかけをつくるか

 問題ばかり起きる職場にいた当時の私は、現状を改善するにはリソースがなにもないと思いました。ヒトも、モノも、カネもない。それで、このアミノ酸製造現場がよくなるのか? 運命は本当に拓けるのか? という疑問が残っていました。

 その答えも出せないままに、なにかを始めなければならないと思い、自分1人でもできる現場の掃除をやることにしました。早朝に起きて、アミノ酸製造課に日勤として朝一番乗りで現場のゴミ拾いや掃除を4年間毎日やりました。まるでお寺の僧侶のように、ただひたすら、無心に掃除をやるのです。

 つまらないことのように思えますが、現場の掃除経験は宝の山でした。まず、驚いたのは、工場がゴミ捨て場のように汚かったことです。ゴミは捨て放題。拾ったゴミのなかには漫画、雑誌、テニスボールなどあらゆるゴミがありました。

 現場のオペレーターは、ゴミを拾わずに床を水で洗い流しているだけだったので、ゴミが工場の隅にたまる一方でした。心ではきれいにしようと思っても、上の人間がカネもかけず、人を半分にしてトラブル対応ばかりさせるため、こんなんで掃除なんかやっている暇なんかないよ、という心の叫びが聞こえてくるのです。

 塩酸を使う職場でしたから、建屋や機械が錆びてボロボロでした。天井から落ちる錆やゴミは厚さが2~3センチになって機械類の上に積もっていました。現場の階段は、錆びて穴が開き、下手したら突き抜けて怪我しそうな状況です。

 その階段の手すりは、安全上、本来は手で体を支持(三点支持)しながら、上り下りすべきなのですが、手が汚れるため、誰も手すりに手を触れていませんでした。職場の入口は雑草が生え、部屋も暗く、まるでお化け屋敷のようでした。

 こんな環境で、まともなオペレーションをしようとしても気力が湧くわけがありません。