1人の行動は必ず職場に波及する

 毎日、課長である私が掃除するので、しばらくすると製造現場の人たちも声をかけてくるようになりました。毎日掃除にくる課長など、それまで見たこともないのですから、とにかく驚かれました。石の上にも三年とはよく言ったものです。

 最初は、「いくら掃除しても、また錆が落ちてくるから無駄だよ」と言っていた人たちもそのうち、「ありがとうございます」と言うようになり、「自分たちでやりますから」と言ってくれるようになります。 

 また、掃除だけでなく、現場のオペレーションの問題点や職場の組織風土の問題、そして個人的なキャリア形成の悩みなどなんでも相談してくれるようになっていきました。私はたしかに、自分の運命を拓く力を持っていましたし、同じように課員も自分たちの運命を拓く力を持っていたんだとこのときはじめて確信できました。

 やはり大事なことは、まわりや環境のせいにせず、自分に意識を向けて、自分から行動することでした。それは小さなことでも、一見関係なさそうなことでもいいのかもしれません。「行動すること」そのものに意味があるのです。

 このときの新人オペレーターだった多くの課員がその後、管理職になっていき、味の素の生産現場を支える人財になっていきました。もちろん、その後、アミノ酸製造課のやる気が認められて、ヒト、モノ、カネを集中的に投入するプロジェクトが発足したからこそ、大きな成果を出すことができたのですが、運命を拓くきっかけは、このように自分や自分たちの組織がそれを切り拓く力を本来持っていることに気がつくことにあったのです。

 頭だけでは気がつかないことです。五体五感を動かしてこそ、実感できる気づきです。そして、その気づきは、「過去をも引き受ける」覚悟があってこそ生まれてきます。「問題職場」だからといって、すぐに嫌にならない、問題会社だからといって嫌になって簡単にやめたりしない。せっかく、社長になってもなにもいいことがないと思わない、未来志向の「夢」を諦めないエネルギーがふつふつと湧き上がってくるのです。