楠木新さんが定年前後の500人以上にインタビューをして判明した「老後に後悔したこと」のワースト3とは。ジャーナリストの笹井恵里子さんが話を聞いた。(著述家・元神戸松蔭女子学院大学教授 楠木 新、構成/ジャーナリスト 笹井恵里子)
50代を充実して過ごす
4タイプの人たち
私はこれまで、定年前後の500人以上にインタビューを続けてきました。そこで取材した事例をもとに、50代を充実して過ごしている人たちをタイプ別に紹介しましょう。私は4パターンに整理しました(図表参照)。
一つは、役職に就くことや組織の中で自身の存在を確認することを生きがいとする「上昇志向型」です。悪くはありませんが、このタイプの方は忙しいことを理由に、会社員の自分に埋没してしまわないように注意が必要です。
同じように会社の仕事で充実感を味わうタイプとして「仕事好き好き型」があります。例えば人事の研修役なら、受講生が喜ぶ顔を見るのがうれしい、ホームページを制作する仕事であれば、どのようにサイトを充実させるかを工夫することが楽しいなど、社内の評価よりも仕事そのものが好きということですね。
この「仕事好き好き型」は、定年後に仕事経験の中から「もう一人の自分」を見いだしやすいというメリットもあります。例えば保険会社で営業をしていた人なら、保険代理店を立ち上げて独立する、もしくは営業マンの指導的な立場で再就職してもいいでしょう。研修役の仕事で活躍していた人は、個人事業主として独立している例もあります。
仕事以外の
「もう一人の自分」を持つ
しかし、すべての人が会社の仕事で生き生きと働けるわけではありません。図表の左半分は、仕事をしながら趣味を充実させる「枠組み脱出型」と、仕事などで得た専門的な知識を対外的に発信するなどの「仕事突き抜け型」です。私は会社員の傍ら執筆活動をしていたので、このタイプといえるでしょう。
面白い例では、長年秘書を務めていた女性が50代になって、社外のセミナーや書籍でビジネスマナーを学び、カルチャーセンターでマナー教室の講師をしている例もありました。もちろん彼女は、会社公認で講師の仕事を引き受けているのです。
また、前回の記事で紹介した美容師への転身のように、現役時代に起業準備をするのもいいですね。定年後を見据えて社会保険労務士の資格取得に挑戦したり、ネイルアートやキッチンカーでの開業に向けて準備したりしている人もいました。
このように「もう一人の自分」に取り組むと、会社の仕事がおろそかになると感じられるかもしれません。しかし、むしろ逆なのです。「会社の仕事」も「もう一人の自分」も充実して、双方の調子が良くなることが多いと感じます。みなさんの身の回りでも、充実した趣味を持っていて、本業の仕事をないがしろにしている人はいないのではないでしょうか。
主体性を発揮して取り組むこと――それが「後悔しないこと」にもつながります。