私と江川の前は、長嶋さんと村山さんの対決や、王さんと江夏さんの対決もそうでした。伝統の一戦には語り継がれる「名勝負」と言われる対決がありました。今の時代は残念ながら、そういう対決がありません。そう考えると、私には宿命のライバルの江川という存在がいてくれて幸せでした。

 江川は「空白の1日」と「阪神のドラフト1位」を経て、世間を騒がせての巨人入りでしたが、チームメイトとして優勝を目指しても面白かっただろうなと思うこともあります。彼のテンポのいい投球のバックで守っていると、打撃にもいい影響を与えてくれるのは間違いなかったでしょう。一度、守ってみたかったなと思います。

 江川とは今でも食事に行くほどの仲です。包み隠さず何でも話せます。それはマウンドと打席の間の18.44メートルの距離の中で、ウソのない対決ができたからだと思います。真剣勝負のいい空間を楽しめたのだと思います。だから、年に1回しか会わなくても、昨日も会ったかのように話せるわけです。そんな人は他にはいません。

 現役の時から気が合いましたが、シーズン中に食事に行くのはNGにしていました。ファンの方々が掛布と江川が仲良くご飯を食べているのを見て、なれ合いの勝負をしているように見られるのが嫌だったからです。それとこれは冗談ですが、関西にきたら会計は私持ちで、関東では江川のおごり、浜松のうなぎは割り勘にしようというルールまで決めていました。

江川との初対決はカーブを
ライトスタンドへホームラン

 王さんと江夏さんの対戦も、江夏さんが一番ホームランを打たれた打者が王さんでした。だから名勝負と言われる勝負はバッターがそこそこ打たないと成り立たないのです。だから私も頑張って江川から打ったほうだと思います。対戦成績は167打数48安打で打率2割8分6厘、14本塁打、21三振です。14本は山本浩二さんと並ぶ最多タイでした。