無味乾燥なデータを「適切な比喩」で直感的に訴える方法を紹介する。
スタンフォード経営大学院教授が学生に教えている、「ただの数字」を「感情を動かす数字表現」に変える文章術をbefore→after形式で100以上伝授する新刊、数字の翻訳が刊行された。本記事では、その中から「家畜の温室効果ガス排出量」を印象的に伝える例を紹介する。(構成・写真/今野良介)

もし牛が国家をつくったら

無味乾燥なデータは、適切に「翻訳」される必要がある。どういうことか。

たとえば、「家畜の温室効果ガス排出量」を説明するには、同じような規模で意外性のあるジャンルの「比喩」を用いるといい。

次の例文を見てほしい。

家畜の温室効果ガス排出量は、世界全体の排出量の14.5%を占めます。



もし世界中の牛が集まって国家をつくったら、世界第3位の温室効果ガス排出大国になります。牛の排出量は、サウジアラビアやオーストラリア、インド、それにEUのどの国よりも多いのです。牛より排出量が多いのは、中国とアメリカだけです」(ノーベル物理学賞受賞者でエネルギー長官のスティーブン・チュウの談話に基づく)

上の文を読んでも、それがどうしたとしか思えない。

畜産業は経済部門の1つだし、「14.5%」は全体のうちのほんの一部分に思える。

だがニューヨーカー誌のライター、タッド・フレンドが「もし牛が国家をつくったら」と問いかけたとたん、畜牛業界の対策が必須だと思えてくる。インドやEU、それにサウジアラビアなどの主要産油国の改革なくしては、地球温暖化を解決できないのと同じ構図だ。

こうしてジャンルを飛び越えた比較を行うと、これらの国よりも排出量の多い「牛の国」の改革抜きの対策はあり得ないように思えてくる。

「牛の国」で環境問題を訴える『数字の翻訳』という技術「……え?」 Photo by Ryosuke Konno

適切なジャンル越えによって、数字に強い人はそのスキルをさらに活かすことができる。

数字で考える人は、こうした比喩表現を軽薄だとか曖昧だとか言って嫌うことが多い。だが、ここに挙げた比較は正当で確かな裏づけがある。

異なる領域を巧みに組み合わせれば、新しい発見が生まれる。感情と数字の両方を味方につければ、異なる世界の橋渡しができるのだ。

『数字の翻訳』では、このような「ただの数字」を「感情を動かす数字」に言い換える法を、100以上の具体例で伝えていく。

(了)

※本記事は書籍『数字の翻訳』の一部を元に編集しています。