多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

悪気なく「会話」をぶち壊している“やりがちな質問”とは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

なぜ、「会話」が失敗に終わるのか?

 例えば、話し手がこう話したとします。

「この前、久しぶりに映画に行ったんですよ!」

 あなたなら、どのように答えますか? 

「へぇ、何の映画?」「いつ頃?」「どこの映画館?」「誰と行ったの?」といったところではないでしょうか。

 このように「5W1H」(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を聴くのが、会話の基本といえば基本でしょう。
「傾聴」を学びたての初級者も、「開いた質問(オープンクエスチョン)で会話を広げよ」と学びますから、その教えに忠実に「5W1H」を聴いていきます。しかし、実は、「傾聴」をするうえでは、これが失敗のもとになります。

「それで?」「続けてください」「詳しく教えてください」だけでいい

 しっかりと「傾聴」するためには、話の序盤5分ほどはあえて質問せず、「述語的会話」で先を促します。「この前、久しぶりに映画に行ったんですよ!」と言われたら、「ほぉ、映画ね。うん、うん。それでそれで?」とか、「ほぉ、映画ね。うん、うん。続けてください」とか、「ほぉ、映画ね。うん、うん。詳しく教えてくれますか?」という感じで受け答えをするのです。

 つまり、質問することによって会話の行き先を限定するのではなく、全方位でどんな話題でも話せるように先を促すのです。使われる言葉は三つ。「それで?」「続けてください」「詳しく教えてください」。これだけです。具体的に見てみましょう。

●「5W1H」の開いた質問を使う場合
話し手「この前、久しぶりに映画に行ったんですよ!」
聴き手「へぇ、何の映画?」
話し手「あ、えーと。スター・ウォーズなんですけど……」
聴き手「あれ、おもしろいよね! 僕も観たよ。うちにDVDも全部揃えてあるよ」
話し手「あぁ、そうなんですね。すごいなぁ」(話したいことが話せずにしょんぼり)

●「述語的会話」を使う場合
話し手「この前、久しぶりに映画に行ったんですよ!」
聴き手「ほぉ、映画ね。うん、うん。それで、それで?」
話し手「家から電車で行ったんですね。そしたら電車の中でバッタリ20年ぶりくらいに高校の友だちに会ったんです。『どこ行くの?』って訊いたら映画っていうんですよ。しかも、僕と同じ映画で同じ映画館! こんなことあるんですねぇ。それで一緒に映画観て、その後二人で飲みに行ったんです。いやぁ楽しかったなぁ」

「話の行き先」を限定してはならない

 このように、話の序盤で「開いた質問」をすると話の行き先を限定してしまいます。だからこそ、プロが「傾聴」するときには、序盤ではなるべく質問をせず、全方位で話せるように「述語的会話」を使います。質問をするのは序盤の5分を過ぎて話の行き先が確定してから。「開いた質問」はその後で使います。これが「よい傾聴」を実現する重要なポイントなのです。

 もちろん、「傾聴」において「質問」は重要な要素です。
 しかし「質問」は万能ではありません。むしろ、使い方を誤ると、質問は「傾聴」の邪魔をすることさえあるのです。そのようなことを避けるためには、最初の5分間は「それで?」「続けてください」「詳しく教えてください」という三つのフレーズで「述語的会話」を使うとよいでしょう。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。