「自分はここで成長できる」と誰もが思える職場にする
とはいえ、そういった優秀な人財が会社を去っていくなか、私は味の素をやめる気はまったくありませんでした。
なぜなら、自分が感じた組織への違和感を解消し、次世代の人財を育成することこそ、自分の役割なのではないかと考えていたからです。そのため、その役割を成し遂げるまでは必ず味の素に勤め続けると決めていました。
そんな困難がありながらも、私はなんとか室長になることができました。室長になった私が最初に取り組んだことはキャリア面接でした。
この面接の目的は研究テーマや能力だけで社員を判断するのではなく、人物そのもののキャリア形成を支援することでした。
人物そのもののキャリア形成を支援するメリットは、主に2つあります。
1 社員のポテンシャルを引き出す機会になる
能力や経歴だけで社員を判断してしまう行為は、社員の成長に蓋をしてしまうことと同義です。仮に社員が「やってみたいこと」や「挑戦したいこと」を持っていたとしても、「経験がないから」という理由でその道を閉ざしてしまう可能性があります。
同時に、経験がないことにもチャレンジしてもらうことで、新しい才能が花開く可能性は大いにあり、個人にとっても組織にとってもメリットが非常に大きいです。
2 社員が自発的に行動できるようになる
能力だけで社員を判断してしまう組織では、社員はできることがほとんどなく、ただ会社に言われたままのキャリアを歩むしかありません。それでは社員は自発的に行動することに意味を見出せず、やがて会社からの指示を待つだけの歯車になってしまいます。
もう少し踏み込んで言えば、社員側は会社の言うことを聞いていれば安定した生活は送れるわけですから、積極性を持たずとも別にいいわけです。
どんなに優秀な人財が揃っていたとしてもこれでは組織の成長はありえません。
自分が研究室長になったからには、入社時のルートや能力だけで社員を判断しない組織をつくろうと考え、社員一人ひとりが自分のキャリアと向き合うきっかけを持てるようにしました。
また、その思いは私が副社長になったときも変わらず、キャリアについて同じように考えていた西井孝明社長(当時)と固定化された人事制度を撤廃し、それぞれの素晴らしい人財が、伸び伸びと成長できる人事制度をつくることができました。