日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。

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日本の伝統企業で感じた違和感

 味の素で技術系だった私のキャリアは、研究所からスタートしました。その後、日本およびアメリカでの製造技術部門と製造部門を一通り経験したことで、それなりに昇格もしました。技術系/アミノサイエンス系のサブカルチャーに属する人財のキャリアとしては順調なステップアップです。

 しかし、自分としては経験を積むにつれて、ある悩みを持つようになりました。

 それは、次世代を担う若い人財も自分と同じように、社内でのキャリアが固定化されていることに違和感を感じてしまうのではないかという悩みです。

 当時の味の素は、文系と理系で明確にキャリアルートがわけられており、事務系(文系)は社長、技術系(理系)は副社長がキャリアの最高到達点という暗黙の了解がありました。また、それに加えて事業部ごとでの力関係もあったため、入社時には、ある程度自分の最高到達点がわかってしまう状況にあったのです。

 もちろん、時代とともにそれは変化していきましたが、その時点においては、それが当たり前のことでした。こういった状況では、出世ルートに乗れた人はいいですが、その裏側では日陰者を生んでしまいます。要するに「頑張ったところで、自分の活躍できる幅は狭い」と感じてしまう人がいるのです。せっかく味の素を選んでくれた優秀な人財が、このような理由で、自分のキャリアを諦め、腐ってしまうのは非常にもったいないと私は感じていました。

 そう思った私は、変化を起こすことにしました。