優れたアイデアや表現を生み出すための最強技法と意識改革をまとめた書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』が刊行されました。編集者として坂本龍一、篠山紀信、カール・ラガーフェルドなど数多くのトップクリエイターと仕事をし、大学教授としてもクリエイター育成に携わってきた菅付雅信氏による渾身の一冊です。
アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決める。もしあなたが「独創的な企画」や「人を動かすアイデア」、「クリエイティヴな作品」を生み出し続けたいのであれば、やるべきことはたった1つ。インプットの方法を変えよ!
この連載では同書内容から知的インプットの技法を順次紹介していきます。今回は、2000人以上のトップクリエイターと30年以上にわたって仕事をしてきた著者が、その経験から見出した知的インプットの重要さについて。

アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決めるPhoto: Adobe Stock

アウトプットの質と量は、
インプットの質と量が決める

 長年クリエイティヴ教育に関わってきた者として、世間で思われているひとつの大きなテーゼに疑問を持っている。それはクリエイティヴ教育とは「いかにアウトプット(=表現)するか?」を教えるものと思われていることだ。

 もちろん、「いかにアウトプットするか?」はクリエイティヴ教育を学ぶ者にとっても、そして多くは現役のクリエイターでもある教える側にとっても、実に大きな課題だ。永遠の課題と言ってもいい。

 しかし、アウトプットのやり方は人によっても大きく異なり、載せるメディア(媒体)によっても異なり、クライアントや共同作業する環境によっても異なり、そして時代と共に激しく変化する。さらにはテクノロジーの急速な発展により、少し前の技術的アドバンテージがまったく無効になってしまうことも増えている。

 では、10年、20年、さらには一生有効であろうとするクリエイティヴ教育の色褪せない普遍のメソッドとは何か? それは知的インプットのやり方を教えることなのではと私は考える。

あなたに足りないものは、
圧倒的にインプットである

 編集者であり大学教授でもある私は、30年以上のキャリアのなかで、内外の2000人以上の第一線のクリエイターと仕事し、取材し、対談してきた。

 ジャンルも、映画監督、ファッションデザイナー、作家、グラフィックデザイナー、写真家、現代美術のアーティスト、建築家、音楽家、哲学者、ダンサーなど、領域横断的にさまざまな才能ある人たちと出会い、共同作業をしてきた。

 また日本人の編集者のなかでは、最も海外のクリエイターと仕事をしてきた者のひとりだという自負もある。

 それらの多様な出会いと仕事を通して得たひとつの確信がある。

「アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決める」

 つまり、優れたクリエイターのアウトプットの質と量は、その人のインプットの質と量に負っている。普段の、そしてそれまでの知的インプットの質と量が低いのに、優れたアウトプットの質と量を長年キープしている人というのに、私は今まで出会ったことがない。

 もちろん、例外的な事例もある。それほど知的インプットを蓄えていない若いクリエイターが、それまでの慣習や文脈とは異なる斬新な作品を発表することは、さまざまな分野で起きる。

 しかし、問題はその若いクリエイターがその後も長年にわたって知的アウトプットの質と量をキープできるかどうか。一発屋にならずに、その後も継続的に良質なアウトプットを出し続けられるかは、その人の普段のインプット力に依るところが大きい。

アウトプットのノウハウばかり
学んでも意味がない

 ところが、巷に氾濫するさまざまなクリエイションに関するノウハウ本──編集、デザインから広告、企画からブランディングまで──の多くは、「いかに、すぐにアウトプットするか?」を説いているものが主流だ。

 もちろん、来週のプレゼン、来週の編集会議、または差し迫ったスタッフ・ミーティングのために、それらのクリエイティヴ・ノウハウ本からアイデアを借用したいと思う気持ちは理解できる。自分も20代の頃は、それらの本をすがるように読んだものだ。

 しかし、すぐに使えそうなアイデアやテクニック、時流にピッタリ合ったクリエイティヴのトーン&マナーというのは、賞味期限が悲しいほどに短い。

 いま流行っているTikTok動画や、ヒットしているポップ・ミュージック、最新のファッション・トレンドを勉強して、それらのフォロワー的なアウトプットを出すようなもので、二番煎じがある程度の売り上げを占めることはよくあるが、二番煎じを続けていてクリエイティヴの第一線で長年活躍することは、評価の面はもちろん、商業の面でもむずかしいだろう。

クリエイティヴな人生を
歩むための指南書

 クリエイターとその志望者たちが、いかにクリエイティヴな山登りやマラソンを維持できるのか。『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』はそのための30年分以上の経験と蓄積から生まれた指南書だ。

 インプットの質と量を高くキープし続けることは、けっして簡単なことではない。人によってはうんざりするような気分になるかもしれない。

 人は簡単にクリエイティヴにならないし、簡単にクリエイティヴになったつもりの人の多くは、長くそれを維持できないだろう。

 ただし、もしあなたがインプットの習慣を変え、知恵や工夫を生かして高い山に登ることができたなら、そこにはふつうの人が味わえない光景が広がっていることを約束したい。

(本原稿は菅付雅信『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』から一部を抜粋・編集して掲載しています)