東北楽天ゴールデンイーグルスの社長として、「球団史上初の日本一」と「収益拡大」をW達成した立花陽三さん。自身の成功と失敗を赤裸々に明かしつつ、成果を出すリーダーの思考法をあますことなく語った初の著書『リーダーは偉くない。』では、2013年の初優勝の立役者である故・星野仙一監督の“人間としてのすごさ”についても述べている。日本中、とりわけ東北に多くの感動を与えた優勝の裏側に、星野監督のどんなリーダーシップがあったのか。立花さんに伺った。
(聞き手は、『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏)
星野監督は“優れた脚本家”だった
――立花さんのご経験上、リーダーとして大事なことは何だと思いますか。
立花陽三(以下、立花) さまざまな要素がありますが、「ストーリー」を積み上げて「人の心を動かす」ことが最も大切だと考えています。
そのことを僕に実感させてくれたのが、星野仙一監督でした。
星野さんといえば「闘将」というイメージがあるかと思いますが、それとは裏腹に、ファンに喜んでもらい、球界を盛り上げるための「ストーリー」を自ら描くことができる“優れた脚本家”でもありました。
ご本人から直接聞いたわけではないですが、球団の社長として一緒に伴走した僕の実感では、東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、楽天野球団)が優勝した2013年、星野さんは次のような「ストーリー」を頭に浮かべていたと確信しています。
「今季は田中将大投手のシーズンだから、田中投手が勝って胴上げ投手にならなければいけないし、最後のウイニングボールは田中投手が投げないといけない」
これが、どんなふうに優勝すれば最も感動を与えられるか、そして野球を通じて「東北の復興」にどうやって貢献するかを常に意識していた星野さんの描いたストーリーです。
なにせ、田中投手はその年、リーグ戦無敗の24連勝。球史に残る活躍をしていました。その彼をストーリーの中心に据えて優勝すれば、絶対に東北が盛り上がる。そう考えたんです。
実際、パ・リーグ制覇を決めた西武ライオンズ戦や日本シリーズ第7戦の巨人戦では、田中投手が9回のマウンドに上がり、試合を締めました。最後の打者を抑えたときの球場全体の熱気や興奮の渦は、言葉では言い表せないほどすごいものでした。
――星野さんが思い描いた通りの幕切れになったわけですね。
立花 もしかすると、想像以上に劇的な展開だったといえるかもしれません。
日本一を成し遂げたとき、東北は本当にとてつもない盛り上がりをみせました。それは、星野さんが、「楽天野球団は『東北のチーム』だ」ということを常に念頭に置いて、采配を振るっていたからです。
そもそも、プロスポーツというのは真剣勝負であるとともに、ショービジネスの側面も持っています。なので、ただ単に結果を残すだけでなく「感動を与える」ことが非常に重要なんです。
それを最高の形で成し遂げたのが星野さんの監督としてのすごさだし、リーダーとしてのすごさです。だからこそ、あの優勝がいまだに語り継がれるんだと思います。