文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。
ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。

できる営業は、売り込むのではなく、何をしている?Photo: Adobe Stock

営業は、話すことより、聞くのが得意な人こそ向いている

 私は文章に関する本を何冊も書いていますが、実は私自身は書くことが好きでも得意でもありません。むしろ、子どもの頃から作文は苦手で嫌いでした。最も嫌だったのは、読書感想文。というのは、読むのも嫌いだったからです。

 そんな私が書くことを仕事にして、50冊以上の著書を出し、ブックライターとして120冊以上の書籍を著者に代わって書いたりしている。昔の私が見たら仰天すると思います。大学時代の友人もみな、驚いています。

 そのきっかけは、ちょっと歪んだ広告代理店への興味でした。人口4万人の田舎から東京の大学に出てきた私は、世の中をまるでわかっていませんでした。大学1年のとき、ひょんなことから4年生の先輩と就職の話になり、大手広告代理店の存在を知ったのでした。

 入社するのがものすごく難しい、という言葉が心の中に残り、鼻っ柱だけは強かった私は、「ならば、そこに行こうではないか」と決めてしまったのでした。折しも時代は、広告の黄金期。広告制作の仕事は、華やかな仕事の代名詞でした。

 しかし、新卒の就活はあっと言う間に玉砕。それでも、あきらめきれずに転職して広告制作の仕事に就くことになります。このとき私は、コピーライターは言葉を見つける仕事で、文章を書く仕事とは思っていませんでした。ところが私が入ったのは、採用広告の制作現場でした。これぞ、まさに偶然だったのだと思います。

 かっこいいキャッチフレーズ一発で広告が成立するような世界ではありません。こうして、だんだんと長い文章を書かざるを得なくなっていったのです。

 そして書くことが苦手だったからこそ、この仕事の本質を見つけることになったのだと思っています。書けなかったからこそ、広告制作でもインタビューを頑張った。良い情報が手に入れば、粗削りでも面白い内容になるからです。

 また、読むのも苦手で嫌いだったからこそ、きっと読者もそうなのだと思いました。心掛けたのは、とにかくわかりやすい文章でした。読みやすく、読み進めやすく、読み始めたら最後まで思わず読んでしまう一気通貫の文章を書く。書くのも読むのも好きで得意だったら、そんなことはまず考えなかったと思います(そもそも小学校や中学校で書くような優等生的な文章は仕事ではまったく求められません)。

 文章を書くことが嫌いで苦手だったからこそ、「文章が書けるようになる本」が書けた。最初からスラスラ文章が書ける人は、伝えたいことを言語化するのは簡単なことではありません。最初は書けなかったからこそ、どうすれば書けるかがわかったのです。

 仕事の本質が理解されていない。これは、あらゆる職業に潜んでいます。例えば、話すのが得意な人が営業なのか。私の見解はまるで違います。どんなに話すことがうまく、プレゼンテーションがうまくても、顧客は必要のないものは買いません。顧客は必要だから買うのです。

 では、本当にできる営業は何をしているのかというと、徹底的に顧客のニーズをヒアリングしているのです。話すのではなく、聞くのが得意な人こそ向いているのです。そうやってニーズを聞き、それに合った商品を提案する。必要な商品であれば、受注確率は一気に上がります。

 実際、私の知っているトップ営業パーソンは、その多くがむしろおとなしく見える人たちです。とにかく聞く。その姿勢はまた、相手からの信頼を得ます。そして、何が起きているのかを理解し、課題を解決するべく動くのです。

 どんな世界でも、成功している人は、こういう仕事の本質が自分に合っているのだと思います。自覚しているかどうかは別にして。だから結果が出せるのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。