文章を書くことを仕事にしたことで、大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。

柳井正さんがユニクロ全社員に口を酸っぱくして語っていたこととは?Photo: Adobe Stock

行動して、考えて、修正すればいい

 ユニクロの柳井正社長のインタビューもよく覚えています。1984年に1号店を出店。以後、驚くほどの成長でまさに日本を代表する企業へと躍進しました。

 柳井さんがインタビューで語っていたのは、当たり前のことを当たり前にしている、でした。それだけなのだ、と。会社の存在意義やビジョンをしっかり共有し、それを社員全員が意識して仕事に取り組んでいる。商売の原点をきちんと守っている。

 小売りの世界は、以前は生産者の時代でした。店頭で販売している人の時代が、買う人の時代に変わった。かつては業者が「うちは販売だ」「うちはモノを作る」「うちは物流」と勝手に決めていましたが、本当に買う人の立場に立って責任を持って商売をしようと思ったら、企画から生産、物流、販売まで、一貫して手がけるのが自然なのだと語っていました。

 買う人とモノを作っている人のインターフェースに立ち、そのすべてをコントロールできることは、企業として理想的。リスクは100%自分たちにあるけれど、リターンも100%ある。これも商売の原点だ、と。

 もう一つ重要なことが、個人個人の仕事がきちんと実行されていることです。柳井さんは、個人の能力が企業を左右する時代になったと語っていました。だから、採用を重視し、優秀な人材をその時代ごとに受け入れ、ステージを変えていったのです。

 実は24歳で家業を継いだとき、柳井さんとの意見の衝突で、7人いた店員が1人を残して全員辞めてしまいました。経営者としては、いきなりの大失敗。しかし、結果的に商売に関しては自分で経験することができた。販売、人の管理、仕入れ、返品、経理……。この体験が大きな意味を持つのです。

 ただ、30代までは、目の前の経営をすることでいっぱいいっぱいだったので、将来のビジョンなんて描けなかったそうです。心掛けていたのは、とにかく会社をつぶさないようにすることだけだったのです。

 失敗もたくさんしたと言います。しかし、致命的にならない限り失敗はしてもいいと考えていました。やってみないとわからない。行動してみる前に考えても無駄。行動して、考えて修正すればいい。それが人生だし、それが商売だと考えている、と。

 これは会社選び、仕事選びの考え方にも近いと思います。まずは行動してみる。そこから起こる偶然や縁を活かす。違っていたと思えば修正する。

 柳井さんは、もともと商売には向いていない性格だと思っていたそうです。でも、商売にずっと携わって、わかったことがあった。それは、向き不向きではなく、これだと思う仕事を一生継続することが何より大事だということ。自分の方向性をはっきりさせるということです。

 そして、環境の大切さを意識すること。自分の能力以上を求められる環境でなければ、成長は難しいのです。

 インタビュー時、全社員に「自営業者になりなさい」と言っていると語っていました。どんな人を採用したいかと問われたら、将来、経営者になりたい人と答える、とも。そんな人材を採用し続けたからこそ、ファーストリテイリングは、今や世界に冠たる会社になったのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。