大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。

小山薫堂さんが、チャンスをつかむために日頃からやっていることとは?Photo: Adobe Stock

人生は選択の連続であり、その度にオールを使う

 積極的な行動が何をもたらすのかというと、思わぬ偶然です。しかし実は、じっとしていても、思わぬ偶然が起きていることもあります。

 良い偶然があるのに、気づかない人が多い、と語っていたのは、数多くのヒット番組を手がけた放送作家として、またアカデミー賞を受賞した映画『おくりびと』の脚本家として、さらにはさまざまなプロジェクトの企画やプロデュースで活躍している小山薫堂(くんどう)さんでした。

 実は、メディアの世界で働くつもりではなかったのだそうです。まさに偶然の連続が起こった。もともとお父さんが熊本で会社をやっていて、大学を卒業したら継ぐつもりだった。ところが、人生を変える人に何人も出会うことになってしまったのです。

 例えば高校3年のとき、隣に座った友人。彼が「僕は映画監督志望で日大の芸術学部を受けるんだけど、別の学科の願書が余ってるからあげるよ」と芸術学部の願書をくれた。それで放送学科を見つけて、受験することになった。

 また芸術学部の面接試験で、隣に座った女の子。小山さんは京都の大学にも合格していたのですが、その女の子がかわいいというだけで、東京に来ることを決めてしまうのです。もっとも彼女は、入学したらすでに彼氏がいたそうですが。

 そして入学すると、偶然に先輩からラジオ局のアルバイトを引き継ぐことになった。最初はコピー取りなどの雑用から始まりましたが、プロデューサーから「キミ、なんか書けそうな気がする」と言われ、ラジオの世界に入るきっかけを得るのです。

 その後、アルバイトを続けるうちに放送作家と仲良くなり、一緒にニューヨークに行くことに。一緒に来る友人がいると待っていたら、そこに現れたのは俳優の三宅裕司さん。

 この旅行で三宅さんとも仲良くなり、「今度、番組の打ち上げやるからおいでよ」と言われて行ってみると、放送作家から「作家になるための修業をさせてるんです」と紹介されることに。

 ガムシャラに目標に向かってという感じではまったくないのです。その後、ビジネスがやりたくて店をやろうとして失敗。作家の仕事が増え、作家一本になります。

 もともと「自分が楽しみたい」「人を幸せにしたい」「誰かを驚かせたい」という気持ちは人一倍あったそうです。これぞまさに仕事の本質です。それを実現する手段の一つが、放送作家だったのです。

 小山さんが語っていたのは、若いときのチャンスの見極めの大切さです。すべてを一生懸命やろうとしても、それは難しい。それよりも、人生の中で「ここは大切だな」と思うところで力を出す。

 人生という太い川を人はカヌーに乗って下っている。でも、川は支流があって枝分かれしている。どこの支流に行けば良い流れにつながるか、その瞬間瞬間で判断しないといけない。ここだと思ったときに、人生のオールを使って必死にこいで理想の支流に行く必要がある。

 人生は選択の連続であり、そのたびにオールを使うのです。では、どの支流を選ぶべきか。それは自分の勘や運命に加えて、「偶然力」によるところが大きいと小山さんは語っていました。良い偶然があるのに、気づいていない人がいかに多いか、と。

 しかし、偶然力は養うことができるそうです。小山さんは、いつもタネを拾いなさい、と言っていました。「これは使えそうだな」「何かのきっかけになるな」と思ったタネは、どんどん人生のポケットに入れていく。あまりあれこれ考えず、偶然に面白いと拾ったタネを大事に持っておく。そのタネが、何かのつながりを生んだりするのです。

 だから、日頃から、行動する。しっかりアンテナを立てておく。人は見えているようで、やっぱり見えていないのです。見えている人は、それをタネとしてポケットに入れている。だから、偶然を転機として活かすことができるのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。