変革の風は外から吹かせる

 そのときにタイミングよく、入会したばかりのCDO Club Japanから講演依頼がありましたので、すでに実績のあるアミノサイエンス事業本部のデジタル技術のネタを中心に、あくまでも、パーパス経営への転換を支える活動としてのDXであるという講演をしました。

 これに対して、日本のビジネス界からは意外なほどのいい反響がありました。3年半前くらいのことですが、当時はまだ、日本企業でDXを本格的にスタートしている企業が少なかったことも大きかったのでしょう。

 外部で評判になると、社内へのインパクトも加速度的に上がってくるから不思議です。その意味で、私が、2020年に、『CDO OF THE YEAR』を幸運にも受賞したことも、大きな社内へのインパクトがありました。

 社外の人から「味の素さんはDXの先進企業ですよね」と言われるうちに、社員は少しずつ「自分たちはいい方向に進んでいるのでは」と感じるようになってきます。

 このように、社内には最低限の説明しかしていないのにもかかわらず、DXへの関心が自然と高まっていきました。

 その後も各種討論会やプレゼンなどに登壇し、味の素のDXを計画段階のものも含めて、どんどん外部発表していきました。そして、その内容は社内のIRに必ず取り上げてもらい、イントラネットを通じてグローバルな味の素グループへ発信し続けました。

 そうなると、私以外にも自らの取り組みや成果を社内外に発表しようとする人たちがどんどん現れるようになります。内向き組織が前向き組織に変化してきている証拠であり、私にとっては非常に嬉しいことでした。

 時間がないので、苦肉の策として、最初から外部にアピールした味の素のDX、そしてそれを指揮するCDOの戦略でしたが、日本のビジネス界の潮流に乗ることができ、幸運とも思えるくらい好調なスタートを切ることができました。