日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書『会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。
「口だけのマネージャーがいる職場」で起きている1つのこと
※本記事は、書籍『会社を変えるということ』の本文の一部を抜粋、再編集したものです。
会社を変えるのには立場や経歴は関係ありません。その意味では、マネージャークラスでない若手社員であっても会社に疑問を持ち行動することは非常に大事なことです。
むしろ、会社に違和感があるのにもかかわらず、見て見ぬふりをするのが一番の問題です。もし、本書を手に取っている読者のなかに「会社や組織を変えたいけど、自分はそんな立場にない」と思う人がいたらどうか諦めないでください。もともとは私も立場があったわけではありません。むしろ、味の素で「理系・アミノサイエンス事業」出身の私は社内的なヒエラルキーは一番下からのスタートでした。
もがきながらですが、それでも「夢」を諦めず、自分のキャリアを拓いてきた結果として、あとから立場がついてきたのです。
私は副社長就任と同時に、兼任する形で味の素のCDO(チーフデジタルオフィサー:最高デジタル責任者)にも就任しました。私は理系出身ではありましたが、ITの専門ではなく、デジタルについては私より詳しい人がいたようにも思います。
先にネタばらしをすると、その後、味の素はDXをきっかけに再生することに成功しました。ありがたいことに大企業のDX成功事例として、多くの取材や講演依頼もいただくようにもなりました。
しかし、そのような成果を得られたのはDXが「なんでも叶えてくれる魔法の杖」だったからではなく、DXが「ただの手段」であることにいち早く気がついたからにほかなりません。
ですから、私は自分がCDOに就任した際も経営のデジタル化ではなく、会社の雰囲気、組織文化を変えることだけにフォーカスをしていました。
ここでは、会社を変える「チェンジリーダー」に求められるものをDXという教材を使って皆さんと考えていきたいと思います。
まず、私がCDOに就任したときに感じたことは「このままの味の素の体制や考え方で、DXの成果を上げることは難しいのではないか」ということでした。理由は2つあります。