車からは翔君と一緒に遊んでいた2人の友達と、10代後半から20代前半のTシャツから出た肌にはびっしりとタトゥーが入った男性2人が出てきました。

 その後駐車場の向かい側の3階建ての雑居ビルに入っていきましたが、商業施設ではなさそうで潜入は控えました。3階の部屋の開いている窓からは大音量の音楽とそれに負けない笑い声や叫び声が聞こえましたが、何をしているのかは全くわかりませんでした。

 数人の男女の出入りはありましたが、翔君の姿は確認できませんでした。その後3時間ほどして翔君と一緒に入った全員が出てきて車に乗り込み、翔君を自宅の前に降ろしてどこかへ走り去りました。翔君はまだ薄暗い中、雨どいを伝って自室に入り就寝したようでした。

 私はいったん帰宅して仮眠をとった後、翔君が入って行った雑居ビルについて近隣に聞き込み調査を開始しました。その結果どこかの会社の持ちビルで事務所として登記されているようでしたが、商業活動は行われていないようで、夜な夜な不良たちが集まって騒いでいる場所ということが分かりました。そこに集まる不良たちの多くが半グレ集団のメンバーらしく、窃盗や薬物使用にも手を出しているようで、近隣の住人も夜は近寄らないようにしているそうです。

 翔君の深夜徘徊が近所のうわさになるほど雑居ビルへ頻繁に出入りしていることと、近い将来、半グレ集団のメンバーになるであろうことはたやすく想像できました。

 まとめた報告書を見た美枝さんは、翔君が危険な道に進んでいることを悟りました。

 探偵の仕事としては終わりましたが、その後の経緯を美枝さんから聞きました。

探偵の調査を受けて
すぐに動いた夫婦

 報告書を見たその夜に夫婦間で話し合った結果、まずは翔君と話し合うことにしたそうです。翌日は仕事を早めに切り上げ食事の準備をして、家族全員で食べ始めました。翔君も何か違和感があったのか、静かな緊張感が漂う中、美枝さんが口を開きました。「翔、最近どこで何をしているのか、正直に話してくれない?」

 最初ははぐらかしたり、無視したり、「うるさいな! 関係ないだろ!」と反発したりした翔君でしたが、やがて両親の真剣なまなざしと説得に折れ、自分が半グレ集団のたまり場に遊びに行っていることを打ち明けたのです。ただゲームをしたり話したりするだけで、たばこは吸ったけど犯罪になるようなことは一切していないとのことでした。

 増永さん夫婦は、すぐに行動を起こしました。まず、カウンセリングの専門家に相談し、翔君の更生のために具体的な手段を教えてもらいました。それは、翔君には適切なサポートと導き、そして人間関係の環境を変えることが必要だとのアドバイスがありました。