「無意識のうちにお客様からの信頼を損なってしまうことがあります」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元トップ営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、身につけた営業スキルをすべて捨て、リッツ・カールトンで磨いた目の前の人の記憶に残る技術を実践したことで、わずか1年で紹介数・顧客満足度全国1位になりました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』です。ガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、お客様に信頼される人が考えていることを紹介します。
大企業の人たちに抱いた「不信感」
営業を始めた頃、とても驚いた光景がありました。
とある大企業のオフィスビルで朝に待ち合わせをしたときのことです。エントランスにはゲートが並んで、出社してきた従業員がひっきりなしに通過していく脇で、警備員さんが「おはようございます!」と挨拶していました。
でも奇妙なんです。
誰ひとり、警備員さんに挨拶を返す人がいなかったんです。
みんな黙々とゲートを通り、一目散にエレベーターを目指しています。警備員さんの声とゲートの「ポーン」という音だけがこだまする、奇妙な空間でした。
有名企業でしたから、きっとそこで働くのはみな優秀で仕事ができる人たちです。ですが僕は、その光景を見て胸がざわつき、「これがこの会社の人たちの本当の姿なのか」と、どこか信頼できなくなってしまいました。
これまで見てきた「いい会社」の共通点
法人営業として、これまでに数多くの会社を訪問してきました。
社員ひとりの会社から、数千人規模の上場企業まで。何百、何千という会社を見てきて気づいた「いい会社」の共通点があります。
それは、相手の立場に関係なく「関わるすべての人に感謝している」ことです。
ある税理士法人を訪れたときは、会社の入り口に設置されたボードに「福島さま ようこそ!」と書かれていて心底驚きました。会社に入ると、受付の方も「福島様ですね。ようこそいらっしゃいました」と、名前を添えて温かいお出迎えをしてくださいました。
また、銀座のある有名クラブに商談に行ったときのことも印象的でした。
約束時間の5分前に店内に入ると、黒服のスタッフが「福島様ですね。お待ちしておりました」と、お客様を扱うかのように丁寧にエスコートしてくれたんです。「申し訳ございません。ママが所用で少し遅れております。もしよろしければ、お好きなものを」と、温かいおしぼりとドリンクメニューも用意くださいました。
至れり尽くせりの接客に、どちらが営業している側かわからなくなった僕は、商談後、いてもたってもいられずママに質問しました。
「営業で来ただけの僕に、なぜこんなによくしてくれるんですか?」
するとママは笑って、こう言いました。
「だって、関わる人みんなに笑顔になってほしいもの。それが商売ってものじゃない?」
あらゆる人は「未来のお客様」
自分のことを見ているのは、目の前にいるお客様だけではありません。
感謝の気持ちがある人か。それとも、感謝がうまいだけの人か。あなたの周りにいるすべての人が、「あなたは、どんな人なのか」を見ています。
「お客様だけに感謝の気持ちを伝える人」は少なくありません。
ですが世の中に向けてビジネスをしている以上、「関係のない人」なんて存在しません。僕は偶然乗ったタクシーの運転手からお客様をご紹介いただいたこともありました。
今は他人でも、あなたが誰かに感謝する姿に信頼を感じて、明日にはお客様になってくれるかもしれません。そう考えると、感謝しなくていい相手なんて、この世には存在しません。
お客様だから、感謝するのではありません。
感謝するから、お客様になってくれるのです。
関わる人みんなに感謝ができる人は、自分にとってメリットのある相手にしか感謝しない人の何十倍、何百倍もの信頼を得ています。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表。経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数、顧客満足度、ともに全国1位に。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。