「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと、米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先写真はイメージです Photo:PIXTA

2014年、ビットコイン取引所マウントゴックス社の機密データ保管庫から480億円相当もの大金が消える事件が発生した。警視庁サイバー犯罪課の捜査によって、同社を経営するマルク・カルプレスが逮捕されるも、「自分こそがハッキング犯罪の犠牲者」と主張。これがアメリカ国税庁によって真実だと証明されると、日本の警視庁はなぜか犯人逮捕の協力要請を拒むのだった──。本稿は、ロバート・ホワイティング著、松井みどり訳『新東京アウトサイダーズ』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

世界的に注目を浴びた
ビットコイン・キングの逮捕劇

 東京の犯罪システムに、足跡を残したガイジンの1人、フランス人のマルク・カルプレスは、東京を拠点とするビットコイン取引所、〈マウントゴックス社(Mt.Gox)〉を経営していた。彼によれば、世界のビットコイン取引の80%を請け負っていた時期もあるという。

 しかし、カルプレスの会社は、2014年に倒産した。85万ビットコイン──当時の価値で推定480億円相当──が、デジタルヴォールト(機密データ保管庫)から消えてしまったからだ。これに怒った投資家たちが、たちまち暗号通貨の安全性を問う事態に発展した。自分の暗号通貨が消滅したことに抗議するため、はるばるスコットランドから乗り込んできた人物もいた。

 カルプレスは2015年、警視庁サイバー犯罪課の捜査により、30歳で逮捕された。〈マウントゴックス社〉の口座の預り金、合計3億4100万円を横領し、電子データを改ざんして、クライアントにダメージを与えた疑いだ。その金を自分の口座に移し、贅沢三昧の生活をするために使った、とされた。

 カルプレス自身は、大掛かりなハッキングの犠牲になった、と主張したが、裁判を待つあいだ、拘置所で11カ月過ごし、連日数時間に及ぶ尋問を受けた。

 暗号通貨は一般人にとって、比較的新しい金銭取引なので、彼の事件は世界的に注目を浴びた。裁判のあいだ、証言に立った警察官は、カルプレス自身がコインを盗んだ、と信じて調査を開始したこと、そのため彼の自白を望んでいることを認めた。警察はさらに、ハッカー捜しを中止した、とも証言している。

「自分は犠牲者。絶対にネコババ
していない」との主張は退けられた

 2019年3月15日、カルプレスは東京地裁において、1つの訴因で有罪判決を受けた。その訴因とは、彼が2013年2月から9月にかけて、ダラスのビットコイン取引所の口座に、およそ3350万ドル相当を送金したこと。しかも、自身の個人的コンピューターを使い、会社の帳簿を改ざんして、不正を隠ぺいしたこと。

 判決内容を読み上げる中で、裁判官はカルプレスが、顧客の信頼を大きく裏切ったことを指摘した。

 しかし特筆すべきは、カルプレスがほかの2つの訴因については、有罪判決を受けなかった事実だ。