彼が下された懲役2年6カ月(検察は10年を求刑)の判決に、裁判官は執行猶予をつけるべきだと判断した。問題を起こさなければ、刑務所に入らなくてもいい、という意味である。

 これは、起訴後の有罪判決率が99%の国、日本で善戦した結果だと言える。

 カルプレスは上訴した。彼の弁護団は、

「暗号通貨は、当時の日本でほとんど管理できていなかった。したがって検察側は、暗号通貨が実際にどのように流通しているかを、理解していない」と主張し、

「カルプレスは大掛かりなサイバー犯罪の犠牲者であり、顧客を守ろうとしたに過ぎない」と訴えた。

 カルプレス本人は、

「2014年にマウントゴックス社が倒産したとき、消失したクライアントのファンドを、自分は絶対にネコババしていない」

 と断言している。しかし、彼の訴えは通らず、地裁判決は、2020年に日本の高等裁判所で支持された。

日本に移住したのち
暗号通貨取引所を買収

 マルク・カルプレスは、“典型的なガイジン・タイプ”(そんなのがあればの話だが)ではない。フランスのディジョンで育ち、『PHYS・ORG』誌の経歴によれば、最終学歴はパリの〈リセ・ルイ・アルマン〉。

 母親が2017年のドキュメンタリーで語ったところによれば、

「息子はコンピューターの天才で、学校ではほとんど友達がいませんでした。ITや量子物理学について、あの子と対等に会話できる友人が、見つからなかったのでしょう。息子が唯一興味を持ったのは、コンピューター・サイエンスでした」

 やがてフランスのテレビ局に採用され、終日、コンピューター・スクリーンの前で過ごした。

 プロの世界に入ると、彼は、フランス企業〈リナックス・シベルジュウール〉にうまくなじめないことを知った。

 やがて会社はデータに異常を発見し、「自動データ処理システムへの不正アクセス」と「データの不正改ざん」の容疑で、2010年にカルプレスを当局に訴えた。カルプレスはフランスで、欠席裁判の末、執行猶予1年を告げられている。カルプレスは日本のアニメとヴィデオゲームにも強い関心を持ち、何度か日本を訪れたあと、2009年に移住し、ビットコインへの興味を深めていった。