2017年ごろには、管財人によって、約5万ビットコインが6億米ドルで売り出されたが、残りのビットコインは、今の価値で60億米ドルを超えている。それが2023年に出回り始めているはずだ。

 結局のところ、カルプレスが不当に狙われた、と考えられる根拠がたくさんありそうだ。スウェーデンのエンジニア、キム・ニルソンは、マウントゴックス社の倒産でかなりのビットコインを失った1人だが、カルプレスが東京拘置所に入っているあいだに、アメリカの連邦当局と情報を交換し始めた。

 アメリカ国税庁の対策本部は、「マウントゴックス社が外部の何者かにハッキングされたことは確かである」と結論づけた。「2011年から2013年後半までのあいだに、何者かが60万以上のビットコインを横取りしたようだ」と。

カルプレスを陥れた犯人を
ついに突き止めて拘束

 アメリカ国税庁の特別捜査員、ティグラン・“ブロックチェーン・ウィザード(ブロックチェーン技術の達人)”・ガンバリャンは、ハッカーを逮捕するため、マウントゴックス社のデータをシェアしてほしいと、日本の警察庁と警視庁に、協力を求めた。

 断られた。

 カルプレスの支持者は、こう分析している──東京の警察は、もしも真犯人が見つかったら、カルプレスに自白させようとした彼らの行為が、いかに残酷で間違っていたかを証明されてしまう、と恐れているに違いない、と。

 しかし、先のエーデルスタインは、マウントゴックス社のデータベースのコピーを、サンフランシスコのFBIに、調査資料として持ち込んだ。結果、アメリカ当局は、盗まれた大量のビットコインの行き先を突き止めた。

「絶対ネコババしていない」マウントゴックス元CEOの訴えと、米国当局が特定した「大量のビットコイン」の行き先『新東京アウトサイダーズ』(角川新書) ロバート・ホワイティング 著、松井みどり 訳

 アレクサンダー・ヴィニクという、ロシア人のビットコイン取引業者だ。

 2017年7月25日、アメリカ当局の要請で、ギリシャでヴィニクを拘束。彼はマネーロンダリング21件と、マウントゴックス社の件を含む、ほかの数件の罪状で告訴された。アメリカは、詐欺とハッキング容疑で、ヴィニクの引き渡しを要求。フランスもロシアも、引き渡しを要求した。

 彼はフランスに送還され、裁判にかけられて、マネーロンダリングの有罪判決により、懲役5年を言い渡された。

 一方カルプレスは、2022年春に新会社〈UNGOX〉を立ち上げた。技術、情報開示性、人事制度、適法性などの重要分野にメスを入れる、暗号通貨取引所の評価や、その関連企業の評価を提供する会社だ。