★NHK「100分de名著」に著者・佐宗邦威さん出演で話題!★
ヒットする商品・アイデアを生み出すうえでは、人の共感を呼ぶ「ストーリー」が欠かせない。とはいえ、ふつうのビジネスパーソンにとって、そうした「物語づくり」はハードルが高く感じられる。いったいどうすればいいのだろう──? 『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の著者・佐宗邦威さんに聞いてみた。
佐宗さんといえば、先日放送されたNHK「100分de名著」に神話学者ジョゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』の解説者として出演されたばかり。佐宗さんによれば、「ヒット商品のつくり方」と同書の核となる理論「英雄の旅」とのあいだには、じつは意外なつながりがあるという──。
世界中の神話に共通する
「人の心を揺さぶるフォーマット」
──佐宗さんは『直感と論理をつなぐ思考法』のなかで、「人にどう思われるか」という客観視点ではなく、個人の「内発的な妄想」からスタートしたほうが、大きな成果につながる発想が生み出せる可能性があると主張されています。ただし、それだけだと単なる「独りよがりなアイデア」で終わってしまうので、相手の心を動かす仕掛けとして「ストーリー(物語)」が大事になる、というのが前回のお話でしたね。
*参考記事
▶【テレビ出演で話題】「共感されない意見」を出してしまう人が、見落としがちなポイントとは?
そうですね。その文脈のなかで神話学者ジョゼフ・キャンベルの「英雄の旅」フレームワークに言及しました。
彼は世界中の神話を分析するなかで、それらには一定の共通パターンが見られることに気づきました。
彼の主著とも言うべき『千の顔をもつ英雄』では、「主人公」「試練」「メンター」など構成要素をめぐり、いくつかの共通ステップにわたってストーリーが展開されていく様が、世界中の膨大な事例とともに描かれています。
──他方で、このフレームワークには、神話学の世界だけに収まらない普遍性があるのだとか。
そのとおりです。前回の記事で、ジョージ・ルーカス監督が「スターウォーズ」シリーズを製作する際に活用したことはすでに触れましたが、さまざまな物語制作においてもこの枠組みが使用されています。
「E.T.」「ショーシャンクの空に」「タイタニック」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など、大ヒットした映画にも、同じような物語構造があると言われていますね。
「7つの物語ステップ」から
「売れる商品」を生み出す
──ビジネスパーソンにとって興味深いのは、「英雄の旅」がビジネスにも活用できるようなポテンシャルを秘めているという点です。
そうですね。「個人の妄想」を具体的な「商品アイデア・事業アイデア」に落とし込んでいくときにも、「英雄の旅」のフォーマットはかなり役立ちます。
たとえば、主人公を「ユーザー」、試練を「ユーザーが抱える問題」、メンターを「問題を解決する商品・サービス」、宝物を「得られるベネフィット」などに置き換えることで、ユーザーが一定の不満を乗り越えて幸せを手に入れるまでのストーリーを生み出すような場合ですね。
──ぜひ「英雄の旅」をビジネスに活かすときの具体的なフレームを教えてください。
キャンベルのフレームはもっと細かく分かれているのですが、『直感と論理をつなぐ思考法』では7つの段階に分けたフォーマットをご紹介しました。
このストーリーフレームを埋めていくときには、次の7つの問いに答えながら、「ストーリーボード」を埋めていくようにします。
・②冒険への誘い──主人公はどのようなきっかけで新たな世界の存在を知るか?
・③迷いとメンターの支援──主人公は旅立ちを前にどのように感じ、メンターが持つどのような力によって、その世界へ入ることを後押しされるか?
・④一線を越える──主人公は、どのような覚悟と期待を持って(商品やサービスの世界に飛び込むという)旅立ちを決めるか? 何が覚悟を決めるきっかけとなるか?
・⑤試練──新たな世界のなかでどのような(複数の)試練と直面するか? メンターはどのように主人公を支援するか?
・⑥克服と報酬──主人公はどのようにして試練を克服し、それによってどのような宝物を得るか?
・⑦宝を得て帰還──宝物を得た主人公は、元の世界に住む仲間を見て、何を思うだろうか? 彼らにどんな声をかけるか?
ストーリーを考えるときは
「視覚に訴えること」を意識する
──「この商品を使うと、こんないいことがあります!」というだけでなく、その中間プロセスでの葛藤などにもフォーカスしているところが面白いですね。
全体のストーリーの流れを見直してみて「まだストーリーに面白みが足りない…」と感じたら、次の点に注意して味付けを変えるのもおすすめです。
・アップダウンのコントラストを激しくする
・主人公の葛藤を描く
・試練や苦労をできるだけ詳細に描く
・物語を通じて主人公が本当に得るものを描く
──「ストーリーボード」では、テキストベースの物語に落とし込むだけでなく、そこにビジュアル要素を加えることも推奨されていますね。
はい、たとえば7枚のポストイットを使う場合は、簡単な手書きイラスト(いわゆるポンチ絵)でもかまいません。
よりビジュアルにこだわるならば、TEDでよく見るような写真を中心としたスライドをパワーポイントなどで作成するのもいいでしょう。
いずれにせよ、視覚的な要素を加えることで、ストーリーに対する共感が増し、相手の心を動かす力を一気に引き上げることができます。
──ありがとうございます! この「英雄の旅」のフレームワークは、個人の人生を振り返ったり、これから先のキャリアを描いたりするときにも役に立つと伺いました。次回はその点についてお伺いさせてください。
(次回へ続く)