★NHK「100分de名著」に著者・佐宗邦威さん出演で話題!★
自分の現状が「望ましい状態」にないとわかっていても、人はなかなか一歩を踏み出せない。これは企業が自分たちを変革できないのとよく似ている。理想に向かって動き出せない人・企業は、いったい何から始めればいいのだろう──?『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』の著者・佐宗邦威さんに聞いてみた。
佐宗さんといえば、先日放送されたNHK「100分de名著」に神話学者ジョゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』の解説者として出演されたばかり。佐宗さんによれば、同書の核となる理論「英雄の旅」には、「人・企業の成長」を考えるうえでのヒントがあるのだという──。
「物語」を欠いた企業理念は「起動」しない
──前回は、『直感と論理をつなぐ思考法』のなかにも登場している神話学者ジョゼフ・キャンベルの「英雄の旅」フレームワークについて解説いただきました。先日の「100分de名著」(NHK)で、佐宗さんはキャンベル『千の顔をもつ英雄』の解説者として登場されましたが、どういう経緯があったのでしょう?
*参考記事
▶【テレビ出演で話題】スターウォーズ、E.T.、タイタニック…メガヒット映画に共通する物語構造「“英雄の旅”フレームワーク」を知っていますか?
僕自身はもちろん神話学の専門家ではありません。しかし、戦略デザイナーとしてクライアント企業に向き合うときには、じつはこのフレームワークをよく意識しているんです。
近年だと、僕の経営するBIOTOPEは「企業の理念づくり・理念浸透」をお手伝いすることが多いのですが、ここでもやはり「英雄の旅」に見られるような「ストーリー」の要素が非常に大事になってきます。
たとえば、企業のビジョンというのは、その組織が将来的に目指す「ありたい姿」を描いたものです。これを短い言葉(ステートメント)に落とし込んで、社員にポンと手渡している会社が多いのですが、それだけだと社員にはどうにもピンとこない。
──どういうプロセスを経て、その理想像にたどり着くのかという「物語」がないからですね。
そのとおりです。だからこそ、経営理念などをつくるときには、ナラティブやストーリーの視点が欠かせません。
企業の現状(=冴えない現実)だったり、その途中でぶつかる課題(=試練)などを描いて、それを乗り越えた先に輝かしい未来が待っている、といった物語とセットで考えていかないと、企業の理念はまともにドライブしないんです。
「理想」や「正論」だけでは、
かえって人は動かなくなる
──それはまさに、佐宗さんの著書『理念経営2.0』のメインメッセージでもありますよね。
はい、「現実」と「理想」の2点を提示して「さあ、ゴールを目指してがんばりましょう!」と言われただけだと、人間はなかなか動き出せません。かえって現状とのギャップばかりが強調されて、身動きが取れなくなってしまうんですね。
現場で働いている身からすれば、日々いろいろな困難があるし、実務レベルではもっと泥臭い作業もたくさんやらなければならない。そういう人に対して、いきなり「バラ色の未来」を提示しても、「嘘くさい」とか「きれいごとだ」と感じられて終わってしまう。
だからこそ、「これからたぶんこういう試練にもぶつかるけど、こうやって乗り越えていこう。そうすれば将来、自分たちはこう変化しているはずだ」というストーリーが絶対に欠かせないんです。
──なるほど。スペックは高いのにお客さんが買わない商品とか、正論を言っているのに部下がついてこない上司というのは、まさにこの「物語」が抜け落ちているのかもしれませんね。
心理学の分野でも言われることですが、ポジティブなストーリーだけを聞かされると、かえって人は不安になるんです。むしろ、ある種ネガティブな要素があったほうが、人は安心すると言われている。
「先のこと」を考えるときには「山あり、谷あり」で想像しておいたほうが、結果的に人からも共感を呼びやすいし、自分自身も安心して進んでいけるんです。
自分の人生を「物語」のように楽しむ生き方
──「英雄の旅」フレームワーク、ちょっと試してみたくなりました!
これは「組織」としての物語をつくるときだけではなく、「個人」の人生を振り返ったり、これから先の未来像を描いたりするときにも使えます。
いまは個人にも無限に多様な方向性が開かれている時代ですから、自分がいまどんな「物語」を歩んでいるのかという「文脈」を自分なりにつくっていくことには意味があると思います。
──なるほど、自分自身のこれまでの人生を、ある種の「成長の物語」として見つめ直してみるわけですね。
キャンベルの「英雄の旅」の特徴は、主人公が一定の試練を経て「元の場所」に戻ってくるという点にあります。
しかも、単なる「堂々巡り構造」ではなくて、以前よりも1つ上のステージに上がっている「らせん階段構造」になっている。
──たしかに、「過去にぶつかった課題や同じようなテーマが、かたちを変えながら何度も立ち現れてくる」という経験をしている人は多いのではないでしょうか。
「人生100年時代」と言われている現代では、誰もが2~3回、場合によってはもっとたくさんの「らせん階段」を経験することになります。そういうなかで、毎回ゼロから未来のストーリーを描くのはちょっとしんどい…。
まずは「英雄の旅」のフレームワークを使って「いまの自分はどこにいるのか」「これからの自分はどこに向かうのか」を考えておくと、見通しがきかない現代社会がもっと生きやすくなるのではないかと思います。
(インタビュー終わり)