半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナー熊本市東区と菊陽町にまたがる武蔵ケ丘の県営住宅 Photo by W.M.

実はもう50年間も人口増加中
菊陽町の悩み「住宅地がない!」

 熊本県菊陽町は、東京都内なら葛飾区と同等の広さ(37平方km)に、約2万世帯、4.4万人が住んでいる。

半導体TSMC進出で「路線価が爆上げ」の熊本県菊陽町、懸念される「交通網のパンク」と移住者のマナー加藤清正公が整備した「鼻ぐり井手」。独特の形状で水をろ過する Photo by W.M.

 この地はもともと、肥沃な土と豊富な水がある農業都市だった。江戸時代初期に肥後国を統治した加藤清正公が、「鼻ぐり井手」(水流に障害物を当てて火山灰を沈殿させる水路)を築造したことで作物の収穫量が数倍に伸びたことで知られる。現代では、西洋人参やスイートコーンが全国有数の生産量を誇る。

 もう1つの特徴が、熊本市から鉄道あるいは自動車(国道57号・菊陽バイパス経由)で30分前後という絶好の立地であり、直近の50年間では、武蔵ケ丘や光の森といった大規模団地の造成が相次いだ。50年前は1万人程度だった人口は、今では4.4万人にまで増えた。なお、2010年の国勢調査では、全国で4番目となる「増加率16.3%」 を記録している。

 一方で、農業都市であるがゆえに、面積の8割を「市街化調整区域」(市街化を抑制する地域。住宅や商業施設などの建築が原則、認められていないエリア)が占め、残り2割の土地は50年間も人口急増が続いている。地価高騰の原因は単純に「暮らす場所が足りない」ことで、TMSC進出によってマンションが数軒建った程度では、全く間に合っていない。面積の8割を占める農地を転用するにしても、農用地区域内(青地)などは宅地転用が原則禁止されており、転用できたとしても数年待ちだ。

 また、一般的に土地取引は公示価格より高く取引されるため、限られた物件の実勢価格が、TSMCが進出する前の数倍にも上る事態が起きている。物件の売却とオーナー交代で賃料が値上げとなり、そのまま退店・移転 を余儀なくされるようなケースも増えているという。爆上がりする地価は、今後は固定資産税にも、ボディーブローのように効いてきそうだ。

 特に入居開始から半世紀も経った武蔵ケ丘や光の森は、明らかに古びた戸建て住宅が多く、相続が増加することが予想される。親から実家を相続した子が、相続税の高さに目を白黒させてしまうかもしれない。一部報道によると、TSMCの2つの工場が日本に約8400億円の税収効果をもたらすと試算されているようだが、その税収増を活用してでも、地価上昇からくる弊害への緩和措置を打った方が良いのではないか。