SuicaやICOCAなど、JR各社が発行する全国相互利用の交通系ICカードの発行枚数は2億枚を超え、定着した感がある。しかし、熊本県の鉄道・バス会社5社は、あえて「早ければ2024年内に交通系ICから撤退」を表明した。実は今後、熊本に続く“交通系IC離脱”が、各地でドミノのように起こりかねない状況だ。地方を取材すると、背景には複雑な事情が絡み合っていることが明らかになった。(乗り物ライター 宮武和多哉)
熊本の鉄道・バス5社
「Suica・ICOCAやめます」の衝撃
鉄道やバスで一番使われているキャッシュレス支払い手段といえば、JR東日本が発行するSuicaをはじめとした、いわゆる交通系ICカードであることは間違いないだろう。JR各社(ほかICOCAなど)や関東大手私鉄(PASMO)など、10カードの発行枚数は2億枚を突破。この1枚で、切符を買わずにスイスイと、全国の交通機関に乗車できる。
しかし5月末、熊本県の鉄道とバス5社(九州産交バス、産交バス、熊本電鉄、熊本バス、熊本都市バス)が、早ければ年内にも交通系ICへの対応を取りやめると表明した。この5社に限っては、25年春以降にSuica、ICOCAなどが一斉に使えなくなる見通しだ。
熊本の鉄道・バス5社の支払い手段は現状、16年3月に対応開始した交通系IC以外に、地域限定型IC「くまモンのICカード」(15年にサービス開始)か、現金支払いかの三択。23年度の利用構成比で見ると、交通系ICが24%、くまモンのICカードが51%、現金は25%となっている。
中でも交通系ICは、国内外の観光客や、県内に工場を持つ世界的半導体メーカーTSMCへの出張で訪れる人々など、地域外からの来訪者によく使われるという。25年春以降に非対応となった後も、くまモンのICカードを読み取るために、
それでも、「交通系IC全撤退」の決断が下されたのは、なぜか。現地取材をすると、背景には複雑な事情が絡み合っていることが明らかになった。