一例としては、2019年に起きた大和ハウス工業による施工管理技士不正取得事件があります。施工管理技士とは、簡単に言えば建設工事を行う際に管理や監督を行う人物です。大和ハウス工業では、当時、この資格を積極的に取得するように促されていました。ここで施工管理技士という資格を取ることそれ自体は、個人としても組織としても成長につながるものであり、それはむしろ目指されて当然のものでした。

組織不正を未然に防止する
というのは楽観的な考え方

 ただし、大和ハウス工業では、この資格を取得するのに本来必要であった実務経験が足りない人物が資格を取得していたとして、結果として営業停止処分が下されました。かつ、このように実務経験が足りない人物による資格取得は約350名にものぼると言われており、単なる個人の不正とは違い、組織的な不正に該当するものだったのです。

 ここまでの話でお気づきかもしれませんが、「不正のトライアングル」やこれまでの研究は、組織不正にはあらかじめ原因があり、それを取り除けば組織不正がなくなるといった楽観的な見方に立つものと言えます。原因があることそれ自体は楽観視できないものですが、原因があると考えて組織不正を未然に防止することができるという考え方は楽観的なものと言えるでしょう。

 しかし、現実はそれほど単純ではありません。これまでにも述べているように、多くの人が不正に手を染めたいとは考えていないにもかかわらず、不正が行われてしまうのです。さらに、多くの人が不正に無関心であるがゆえに組織不正の影響が計り知れないものとなってしまう傾向にあるのです。

 これは言わば、多くの人が無関心であるにもかかわらず、組織不正が起きてしまうという悲観的な見方になります。このような悲観的な見方をあえてすることによって組織不正とは何かを根本から考え直すための新しい視点を私たちは手に入れることができるのです。