肩をすくめる男性写真はイメージです Photo:PIXTA

組織不正は悪意を持った個人によって計画的に行われると思われがちだ。しかし、最近の研究では、当事者の多くは「不正に無関心で、無意識に不正を行っている」という指摘もある。また、よかれと思って皆でとった行動が、知らず知らずのうちに組織不正に繋がるケースもあるという。※本稿は、中原 翔『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』(光文社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

多くの人は無関心なまま
不正を行っている

 組織不正についての最近の研究では、「多くの人は無関心なまま不正をする」と言われています。

 それ以前の研究では、不正をしようとする人は大変注意深い人物で、不正をしようとする機会をうかがい、積極的に行うものと考えられていました。つまり、「不正のトライアングル」(編集部注/3つの要素「機会」「動機」「正当化」が結びつくことで不正が行われることを示したモデル、図1-1)で考えられているような人物です。このような人物は、周囲にはなじまずに、孤立している場合も多いと考えられています。

図1-1:不正のトライアングル同書より転載 拡大画像表示

 このような風変わりな人物が不正を行うことから(あるいは、それが組織的に拡大して組織不正に至ると考えられたことから)、組織不正とはまれなものであり(めったに起こらないものであり)、常識とはかけ離れたものであると思われてきたのです。

 しかし、私が研究において参考にしている社会学者のドナルド・パルマーは、このような見方では組織不正がここまでなくならない理由を説明できないとしています。そのため、パルマーは、これとは正反対の人物像を仮定し、むしろ不正には消極的な人物が不正を犯すことで、それが組織全体を含む組織不正へと拡大するのだと説明しています。

 つまり、多くの人は不正に無関心なことが多く、不正をしようとも考えておらず、そのため積極的に不正をしようとする意思もない、というのです。このような人物は、不正をしようとする様子もないため、孤立しているどころか、むしろ周囲に溶け込んでいるものとされます。

私たちの身近なところにこそ
不正を犯してしまう人がいる

 このような見方は、パルマーが2012年に出版した本である『Normal Organizational Wrongdoing:A Critical Analysis of Theories of Misconduct in and by Organizations』(邦訳すれば、『常態化した組織不正:組織による/における逸脱行為論の批判的分析』)に書かれているものですが、この本は世界最大の経営学会でもある米国経営学会(Academy of Management)で最優秀書籍賞にノミネートされています。