2024年6月、トヨタ自動車など日本の大手自動車メーカーで認証不正が行われていたことが発覚した。世界のエリートが集うハーバードビジネススクールでも度々取り上げられてきた日本の“優良企業”で不正が慣習的に行われてきた要因はどんなところにあったのか。企業倫理を専門とするジョセフ・バダラッコ教授は、三つの要因を指摘する。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
日本の大手自動車メーカーで
不正が相次いだ要因とは?
佐藤智恵 2024年6月、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの自動車・二輪車メーカー5社が自動車などの大量生産に必要な「型式指定」の申請において不正を行っていたことが明るみに出ました。
ハーバードビジネススクール(以下ハーバード)で企業倫理を教えているバダラッコ教授は、今回の認証不正問題が起きた背景をどのように分析していますか。
ジョセフ・バダラッコ 私が何よりも驚いたのが、不正を行っていた会社の数です。これが1社であれば、「業績必達へのプレッシャー」など経済的利益の追求が主たる要因であるケースが多いですが、5社ともなると、認証試験制度そのものにも問題があるように思いました。
今回の事案は、2015年にアメリカで発覚した独フォルクスワーゲンによる排出ガス不正事案と似ていると思います。このときもフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツなど、複数のメーカーが同様の不正を行っていたことが分かり、メーカー側の企業文化だけではなく、当局による検査方法や厳しすぎる規制などを問題視する声が相次ぎました。
佐藤 トヨタ自動車をはじめ、日本の自動車メーカーには、心理的安全性を高めることを重視し、悪いニュースを先に報告することを奨励する文化があると、ハーバードでも称賛されてきました。
にもかかわらず、なぜこのような不正が長期間にわたって行われてきたのでしょうか。