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出張時に自分で列車や飛行機、ホテルの予約を取り、交通費や宿泊費を後から精算する会社員は多いだろう。ホテルのQUOカード付きプランを利用したり、クレジットカードでポイントやマイルが付いたりして「もうかった」分を私的利用した場合、それは横領ということになるのか。また、会社は社員を処分できるのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)

<甲社概要>
都内に本社がある機械備品の製造、卸売会社で従業員数300名。大阪と名古屋に営業所がある。
<登場人物>
A:大学卒業後甲社に就職し現在は本社営業課長(メンバー20名)と名古屋営業所(メンバー8名)の営業課長を兼任している。40歳。
B:本社営業課長代理でAの部下。35歳。
C:本社人事・総務部長。会社全体の人事総務責任者。
D:総務課主任でCの部下。旅費の精算を担当している。
E:甲社の顧問社労士。

毎週、東京本社から名古屋営業所へ出張するA課長

 甲社は経営方針の変更により、昨年4月に名古屋営業所の規模を縮小、都内にある本社の営業課長が名古屋営業所の営業課長を兼任することになった。

 A課長の週間スケジュールは、月曜日から水曜日は本社勤務、木曜日は朝自宅を出たら新幹線に乗り名古屋へ直行。木曜~金曜は名古屋営業所で勤務し、昼間は営業社員の顧客先に同行したり、自ら新規の取引先を開拓して外回りをこなしたり、夕方からは課内ミーティングで部下の指導を行ったりしている。A課長は営業所近くのビジネスホテルに宿泊し、翌日は17時まで勤務した後、新幹線に乗り自宅に直帰した。A課長は本社での課内ミーティングや部下の指導は原則自分が在勤している日に行うようにし、木曜と金曜はB代理が部下の報告を受け、その場で指示を出していた。

 今年5月に入ってから本社営業課で大口の新規案件を立て続けに獲得し、直接関与していたA課長の業務量が増えた。毎週名古屋に行けなくなることを懸念したA課長はB代理に、「自分が名古屋に行けないときは、代わりに出張してもらうことになる。現地メンバーとの顔合わせと課長の業務内容を把握する意味で、一度同行してほしい」と言い、6月中旬の木~金曜日、2人で名古屋に行くことになった。

「自分は行きの新幹線は朝7時発、宿泊は『乙丙ホテル』、帰りは、駅近の居酒屋で名古屋めしを堪能したいので、19時発と決めているんだ」
「せっかく名古屋に行くからには、自分もひつまぶしや手羽先とかを食べたいので、スケジュールは全部課長に合わせます。何なら私が新幹線や宿を課長の分も一緒に手配しておきましょうか?」
「そうだな。新幹線は席が隣同士の方がいいからお願いするよ。出張交通費と宿泊費は一旦自分たちで立て替えて、後で会社に請求することになっているから、自分の新幹線代は今、君に預けとくよ」
「じゃあ宿はどうしますか?」
「それは自分で予約するので、君は自分の部屋だけ確保してくれ。それぞれシングルルームを取ればいいんだから、別々に予約しても問題はないでしょ?」

 A課長は普段、往復の新幹線とホテルはネットの予約サイトを使い、自分名義のクレジットカードで決済していた。予約サイトやクレジットカードを利用するとそれぞれポイントが付与されるし、ホテルは毎回2000円分のQUO(クオ)カード付きプランを利用していたので、月4回の出張でポイントとQUOカードを合わせると少なくとも1万円以上の小遣いを手にすることができたのだ。今回、往復の新幹線はB代理に購入を頼んだので、その分のポイントはあきらめたが、宿泊は毎回予約している「乙丙ホテル会員専用サイト」のポイント付与率が高かったのと、会員のみの限定でQUOカード付きプランを利用できたので、A課長が自ら予約を入れることにしたのだ。