「自分の成功体験=正解」はまったく通用しない

 絶滅危惧種にはなりつつありますが、それでもまだまだいらっしゃいます。Sさんのような人は。
 
 今の若い人たちが非常識としか思えないようなことを平気で口にしてしまう理由は、おそらく次の3つです。

(1)自分の価値観をなかなか変えることができない
→頭では時代の変化を理解していても、体がそれについていけてない

(2)町工場の職人の世界では自分のやり方が正しいと思っている
→コンプライアンスや働き方改革といった概念は、大企業だけに関係のある話としかとらえていない

(3)本気でRさんのためを思って言っている
→すべて善意からくる行為であり、パワハラ、嫌がらせ、いじめなどという感覚はゼロ

 Sさんのようなタイプは、すべて「よかれ」と思ってやっています。とくに(3)に関しては顕著で、自分はそうやって苦労してきたから、成長できたし、稼げるようにもなったという思いが強く、後輩たちにその感覚を押しつけてしまうのです。
 
 だから悩ましい問題であり、Rさんや中間世代の先輩のように、逆に意見を言ったり、反論をしたりすることができないのです。これでは「仲間の壁」が生まれるのも当然といえます。

「手に職をつければ一生食える」はすでに遺物

「サービス残業は当たり前」と主張するベテラン社員は、内心何を考えているのか?出典:医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)

 町工場の職人さんでなくても、Sさんのように 「若いうちはたとえ無報酬でもがんばって技術を身につけたほうがいい」「若いころから楽をすると、将来苦労する」と考える高齢者は多いです。実際にそれが正解だった時代もあるでしょう。一部の世界では、まだまだ通用するという可能性もあります。

 だから、Sさんのような考えを頭ごなしに否定することはできません。しかし、今の時代にそれを押し通すのは難しいです。仕事に対する価値観が変わったことも当然の理由として挙げられますが、実際問題として、 「手に職をつければ一生食っていける」が通用しなくなった点も見逃せません。

 AIが進化し、便利なロボットが次から次へと作られるようになりました。将来的に、この状況はもっと進んでいくことでしょう。だから、どんなに苦労して技術を身につけたとしても、一瞬にして機械に取って代わられる、ということが起こり得ます。

 手に職をつけても、それが一生ものの価値を持つとは限りません。若い人たちはそのことを理解しています。理解しているからこそ、 「無報酬でも技術を習得」ということは望んでいないですし、誰もが出世、お金、成功といったものを求めているとは限らないのです。

 まずはその現実を知る必要があるでしょう。

 自分の考えは間違っていない。でも、若い世代の人たちの考えも間違っていない。そもそも価値観が違う。

 だから、押しつけ合ってはいけない。相手が厳しく指導してもらうことを望んでいる場合だけ、自分のスタイルを貫けばいい。

 そのように考えてみてはいかがでしょうか。必ずや、「仲間の壁」を取りはらうきっかけになってくれると思います。