日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏が、住宅ローンにまつわるお金の新常識を解説した決定版『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を5月に上梓した。これから借りる人だけでなく、すでに借りている人が読んでも役立つアドバイスが満載の本書は、「もっと早く出合いたかった」と反響を呼んでいる。今回は、「利上げがあるのでは?」と憶測が飛んでいる今月末の日銀金融政策決定会合を前に、「借り換え」のメリットについて塩澤氏に伺った。(聞き手/『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者 安達裕哉氏、構成/ダイヤモンド社 根本隼)

【住宅ローンの裏事情】「変動から固定」ではなく「変動から変動」への借り換えが続出している“衝撃の理由”Photo:Adobe Stock

「変動から変動」への借り換えとは?

――今、住宅ローンの「借り換え」の相談は結構来ていますか?

塩澤崇(以下、塩澤) そうですね。日銀の金融政策に動きがあると、金利見直しのニーズが高まるので、借り換え関連の相談は増えています。

 特に、「変動金利から変動金利」が多いんですよ。

――え? どういうことかよくわかりません。 

塩澤 ですよね。私も以前ある人に、「変動から変動への借り換えが最近多いです」と伝えたら、「変動金利を借りているのであれば自動的に金利は下がっていくはずなので、低金利の今わざわざ借り換えるなんて無意味じゃないですか?」と言われました。

 でも、これは大きな勘違いです。まず第一に、2009年以降に住宅ローンを変動で借りた人の支払い金利は、現在に至るまで少しも下がっていません

――そうなんですか⁈

「変動金利」で借りている人の“大きな勘違い”

塩澤 そもそも、皆さんの支払う金利である「適用金利」は、以下のような流れで決まります。

(1)日銀の政策金利の動向に「短期プライムレート」(短プラ)が影響を受け、
(2)短プラが変動すると「基準金利」も連動し、
(3)基準金利から引き下げ幅を差し引いて「適用金利」が決まる
(適用金利=基準金利ー引き下げ幅)

 多くの方はご存じないのですが、変動金利を借りた後、適用金利が上がるか下がるかは基準金利次第です。なぜならば、引き下げ幅は審査時に決定されて完済まで一定だからです。

 なぜ2009年以降に変動で借りた人の適用金利が変わっていないのか。それは、日銀の政策金利はその間にゼロ、そしてマイナスへと下がった一方で、短プラは1.475%のままで留まったからです。

 つまり、短プラが下がらなかったので、短プラと連動する基準金利も、基準金利に連動する適用金利も同様に下がらなかったんです。

 多くの人は、「自分は変動金利で借りているから、日銀が金利を下げれば支払う金利も自動的に下がるんでしょ?」と思っていますが、それは完全に間違い。2009年以降は一切下がっていません。

――衝撃ですね。2009年に変動で借りた人は、全く得をしていないということですか?

塩澤 その通りです。借りたのが2009年でも、2012年でも、はたまた2014年でも、その時点から基準金利は変わっていないので少しも得していません。

 しかも、2010年代ごろは、銀行間の競争がそれほど激しくなかったので、引き下げ幅が今よりかなり小さかった。恐らく、1〜1.5%ぐらいだったはずです。なので、高いケースだと、基準金利2.475%から引き下げ幅1%を引いて、適用金利は1.475%程度という人もいるでしょう。

 でも、現在は引き下げ幅が2%くらいですから、適用金利は0.475%です。

支払い金利を減らすには「借り換え」が必要

――同じ変動金利でも、借りる時期が違うだけでこれだけ支払いに差が出るんですね。

塩澤 まさにその通りです。今でも1%超の変動金利で借りている人は、ざらにいます。そういう人たちは、「今は超低金利の時代だから、自分の変動金利も下がっているはずだ」と思い込んでいて、本当にもったいないと思います。

 変動で借りた人が適用金利を下げたいと思ったら、借り換えによって“より大きな引き下げ幅”を自ら獲得しにいかないといけません。先ほど紹介した「変動金利の決まり方」をしっかり押さえておけば、おわかりいただけるかと思います。

――住宅ローンをすでに借りている方は、ご自身のローンの状況を今一度チェックした方がいいですね。

塩澤 絶対にそうすべきです。いまや、0.2%台という破格の変動金利もあります。非常に低いですよね。

 ちなみに、現在お支払いの金利が0.5%以上なら、0.2%台の変動金利への借り換えでメリットがあるはずです。0.5%の変動金利というのは、2010年代に借りた人だけでなく、下手すると2020年頃に借りた人でもありえます。

――それだけ、現状の変動金利の相場が安いということですね。

塩澤 とにかく安いです。主要銀行の最下限金利や事務手数料などについては本書の比較表にまとめましたが、まずはご自身のお支払い状況をチェックして、損をしないように行動してほしいですね。

(本稿は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の著者・塩澤崇氏へのインタビューをもとに構成しました)

塩澤崇(しおざわ・たかし)
株式会社MFS 取締役COO
2006年、東京大学大学院情報理工学系研究科修了(専攻:数理情報学)。同年よりモルガン・スタンレー証券株式会社にて住宅ローン証券化ビジネスを推進。2009年、ボストン コンサルティング グループに入社し、金融機関向けの戦略コンサルティングに従事。2015年9月より、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFSの取締役COOとして金融機関提携・オペレーション・事業提携・広報を管掌。全国紙でのコメント掲載やTVへの出演実績も多数。『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』が初の著書。