「リッツ・カールトンのスタッフたちは皆、ある意識を持っていました」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、著者がリッツ・カールトン時代に遭遇した「驚きの光景」について紹介します。

「ある日、最寄駅の構内で、人材開発部のマネージャーが青年に手を振っているのを見たんです」リッツ・カールトンのホテルマンが驚いた、その光景の「ワケ」とは?Photo: Adobe Stock

忘れられない「面接官」

 リッツ・カールトンに勤めていた、ある日のこと。最寄りの六本木駅構内で、人材開発部のマネージャーを見かけました。

 彼は改札越しに、一人の青年に向かって笑顔で手を振っていました。
 ホテルの外で制服姿のスタッフと遭遇したことがなかったため、驚いた僕は思わず「ご友人ですか?」と、マネージャーに尋ねてみました。すると、彼はこう言いました。

「いえ、面接に来てくれた方です」

 話が盛り上がり、つい、駅の改札までお見送りしてしまったそうです。
 見送られていた青年のほうを見ると、彼もまた、満面の笑みでした。

もしも僕だったら、ファンになってしまう

 僕もアルバイトや正社員の面接を受けた経験は何度もありましたが、普通は見送ってくれるにしても、「エレベーター前まで」です。駅の改札までなんて、聞いたことがありません。
 だから、そのマネージャーの姿は今でも強く記憶に残っています。

 きっとその青年にとっても、マネージャーの姿を含め、「忘れられない面接」になったことでしょう。
 僕が応募者の立場なら、きっとリッツ・カールトンの大ファンになってしまいます。そして自宅に帰る電車の中で、興奮して友人や家族に、こんな連絡を送っていたはずです。

「ねえ聞いてよ。今日リッツの面接に行ったんだけど、こんなことがあったんだ!」

「お客様」としてではなく、
「人」として向き合おう

 大切なのは「お客様を見つける」ことではなく、「ファンをつくる」こと。

 リッツ・カールトンのスタッフたちは、この意識を大切にしていました。「お金を払ってくれるお客様」ではなく、ひとりの「人」として向き合っていたんです。

 面接に来た青年を駅まで見送ったマネージャーは、純粋に「もっと話したい」と思ったから駅まで見送ったそうです。損得勘定で考えていたら、そんな面倒なことはしていなかったでしょう。

「人」として向き合うことで、相手は「この人は仕事のためではなく、自分のためにやってくれているんだ」と感じます。そして相手も、こちらを「人」として信頼してくれます。

 一方で、売るために人の前に立った瞬間、相手にとって自分は警戒すべき存在になります。「騙されないぞ」と、心を鉄壁の守りで固めてしまいます。
 相手から信頼を得たいなら、まずは目の前の相手を「お客様」だと思うのをやめましょう。
「売る人」と「買ってもらう人」という意識を捨てることが、信頼を得るための第一歩なのです。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。