「挑戦において重要なのは、成功することではありません」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、著者が「挑戦することの意義」を実感したエピソードを紹介します。

「始まった瞬間に頭が真っ白になり、終盤で話す予定のエピソードを開始5分で出す始末。2時間の研修で、1時間以上は質疑応答をしていました…」大失敗の研修が講師にもたらした、意外な結果とは?Photo: Adobe Stock

「保険会社での研修講師」への挑戦

「成長するには、何に挑戦すればいいんだろう」
 営業時代、緊張することも減って伸び悩みを感じていたとき、僕はある人との会話を思い出しました。

 それは、直前に参加した交流会で会った保険会社の男性営業との会話です。「もしよければ、うちの営業所の研修でホテル時代の話をしてくれませんか?」と相談されていたんです。
 当時は人前で話した経験なんて一度もなく、自分の経験を具体的に振り返ったこともありませんでした。しかも相手は、営業の猛者揃いの保険会社……。

「勉強になった」だなんて、絶対に言ってもらえない……。

 怖くなり、「僕なんかが、そんなことできないですよ」と濁していました。

 その会話を思い出して、「成長できる場面って、これかもしれない」と気づきました。
 リッツ・カールトンでは誰よりも情熱的に働いていました。言語化やノウハウ化こそしていませんが、話くらいならできるはず。そう考え、「僕でよければやらせてください」と、その営業の方に連絡しました。

大惨事の研修

 その時点で研修までは約1ヵ月。それだけあれば内容は考えられるだろう。……なんて思っていましたが、一向に思いつきませんでした。
 内容ができあがったのは、なんと前日の夜。ホテル時代のエピソードもたくさん盛り込んだ、その時点のベストと思える台本ができあがりました。

 当日は緊張で朝早く目が覚め、会場に向かう道中は生きた心地がしませんでした。最寄り駅には1時間以上前に着き、近くのカフェでコーヒーを飲みながらミントのタブレットをボリボリとかじり、僕はひさしぶりの緊張感を噛み締めました。

 結果は……もう散々なものでした。

 僕の目の前には、営業の猛者たちが20人ほどズラリと座っていました。始まった瞬間に頭が真っ白になり、「これは終盤に言おう」と決めていたエピソードを開始5分後には話す始末。もう台本を見ても取り返しがつきません。2時間の研修で、1時間以上は質疑応答をしていたかと思います。
 僕の慌てた様子を見て、質疑応答を入れてくれた担当者さんには心から感謝です。帰宅する電車で、僕は自分の無力さと、依頼をくれた人への申し訳なさから放心状態になっていました。