「目の前のお客様に感謝するだけでは、信頼は得られません」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得る方法が満載で、「人と向き合うすべての仕事に役立つ!」「とても共感した!」「営業が苦手な人に読んでもらいたい!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、営業時代に徹底していた「感謝へのこだわり」について紹介します。

【そこまでやるなんて!!】お客様に「あなたから買いたい」と信頼される人だけがやっている“感謝を伝える技術”Photo: Adobe Stock

訪問先で唯一「感謝を伝えられなかった人」

 僕は法人営業なので、商談の7割はお客様の会社でおこないます。5分前を目安に到着し、入り口で名乗ると、受付の方が出てきてくれて応接室に通されます。椅子に腰かけて待っていると、先ほどの受付の方、もしくは事務員さんが「どうぞ」と、お茶やコーヒーを持って来てくれます。

「いただきます」と伝えて飲んでいると社長がお越しになり、商談が終わると、お茶のお礼を社長に伝えて、空いた湯呑を机の端に寄せて帰る。法人営業の会社訪問は大体こんな流れかと思います。

 その日に訪問した会社でも、同じ流れで商談を終えました。そして帰社する途中、電車に揺られながら「感謝を伝え忘れた人はいなかったか?」と、その日の出来事を振り返っていました。
するとひとりだけ、感謝を直接お伝えできていない人がいたことに気づきました。

 お茶を下げてくれた事務員さんです。

 僕は飲食業出身ということもあり、ランチでも飲み会でも最後には「ごちそうさまでした」と、料理を作ってくれた人やサービスしてくれた人に感謝を直接伝えないと気がすまないんです。
だから、お茶を出してくれたときに「ありがとうございます」と伝えていても、帰り際に「ごちそうさまでした」と言えていないことが気がかりだったのです。

お客様の心を動かした「隠されたメッセージ」

 事務員さんとは名刺を交換しないことがほとんどなのでメールもできないし、電話をかけたり手紙を送ったりするのも大袈裟すぎて気味悪さを与えてしまいます。どうすれば、お茶を下げてくれる事務員さんに感謝を伝えられるのだろう……。

 考えていると、ある方法を思いつきました。それはホテル時代、お客様から名前を聞かれたときにだけ渡していた「手書きの名刺」です。

「これが使えるぞ!」

 ひらめいた僕は、無地の名刺用紙を小さな正方形に切り、「美味しいお茶を出してくださり、ありがとうございました」とメッセージを書きました。そして、次回訪問時の帰り際に、茶托(お茶碗を載せる受け皿)の下に隠して帰りました。

 するとその帰り道、先ほどまで打ち合わせをしていた社長から電話がかかってきました。忘れ物でもしたかと思い「どうかしましたか?」と電話に出ると、社長は開口一番にこう言いました。

「福島さん、ありがとう! うちの従業員にメッセージカードを書いてくれたでしょ!」

 事務員さんに読んでもらうためのカードを、どうして社長が……? 驚きながらもわけを聞くと、カードを見つけた事務員さんが社長に「こんなカードをいただきました!」と、報告したそうです。

 自分だけでなく、自分の大切な人を大切にされたときも、人は大きな喜びを感じます。社長にも喜んでいただけて、商談も円満にまとまりました。

お茶の下に隠したメッセージの予想外な反響

 さらに驚きなのが、この「お茶の下のメッセージカード」が思わぬ反響をいただいたことです。
 オーダーメイド型のウエディングを手掛ける、とある会社があります。式場などの箱を持たず、企画・オペレーションのみを実施する会社です。式場を借りにさまざまなホテルやレストランに営業へ行くそうですが、「場所だけ貸す」というビジネスモデルに共感してもらえず当初は苦戦していたそうです。

 その会社で新規開拓をしていたのが、笑顔が素敵な50代の男性でした。僕は会食でその方と出会い、「お茶の下のメッセージカード」の話をしたところ、それから数ヵ月後、彼から突然お礼の連絡が来たんです。どうやら東日本の大きなホテルと契約が決まったとのこと。その経緯を聞いて驚きました。

 彼がそのホテルに営業に行ったのは、冬の寒い日。宴会場の担当者が温かいコーヒーを出してくださったことが嬉しく、帰り際に「本日は美味しいコーヒーをありがとうございました。冷えた体も心も温まりました」と、例のメッセージカードをソーサーの下に忍ばせて帰ったそうです。

 すると数日後、そのホテルから連絡が入り、なんと彼のことを社内で表彰したいと言われたのです。彼が置いていったメッセージカードに感動した担当者から報告を受けた上司、そして運営会社の会長の目にもとまったとのことでした。

 嬉しそうに報告してくれたその営業の方は、それから数年後、ご病気で急逝されました。もうお会いすることはできませんが、満面の笑みで報告してくれたときのお顔を今でも鮮明に覚えています。

 その後も「お茶の下のメッセージカード」は多くの人に真似していただき、噂が噂を呼んでか、ビジネス雑誌でも取り上げていただきました。

 お客様に感謝をちゃんと伝えている人は多いかと思います。でも、目の前のお客様に感謝を伝えるのは当たり前のことです。大切なのは、すべての人に感謝を伝える意識を持つことなのです。

(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。