トランプ優勢で米国経済にかく乱リスク!日本への影響は?【伊藤忠総研が解説】ドナルド・トランプ前米大統領 Photo:Anna Moneymaker/gettyimages

ソフトランディングに
向かう米国経済

 米国では、景気が大きく落ち込まずインフレが沈静化する「ソフトランディング」達成の可能性が高まっている。インフレ率は、今春には下げ渋ったが、足元では再び低下基調にある。景気も緩やかに減速しており、需要の過熱がインフレ再燃につながる懸念は大幅に後退した。

 米国の高インフレは、(1)財(モノ)の不足や供給制約、(2)国際商品市況の高騰、(3)労働コストの上昇が原因となってきた。ただ、現在では、国内外の供給網は正常化し、半導体などを中心とした部材の不足も解消した。また、ロシア・ウクライナ戦争による国際商品市況の混乱も収束している。インフレ沈静化のためには、労働コストの上昇鈍化、すなわち賃金の伸び鈍化を待つだけとなった。

 今回の高インフレに関する実証分析も進んでいる。バーナンキ元FRB議長と著名な経済学者であるブランシャールの共同研究では、インフレ率と賃金上昇率、期待インフレ率が相互に影響しあうモデルを構築し、外部からのショックとして国際商品市況や供給制約、労働需給(人手不足感)などを取り入れた。その結果、足元の米国のインフレ率の高さは、労働需給ひっ迫による賃金上昇率の高さでほぼ説明できるとの結果を見出した。

 労働需給のひっ迫解消には、通常は労働需要を抑制するために景気の冷え込みが必要となる。ただ、昨年にかけては、移民を中心とした外国人労働者が大幅に増加して、労働供給が急回復するという追い風があった。また、コロナ禍で生じた雇用のミスマッチ(求人側と求職側の需要が合わない状態)が順調に解消し、失業率の上昇が抑えられた。これらが重なり、雇用情勢は良好なまま労働需給のひっ迫解消が進んだ。

 現在はインフレ沈静化の終盤戦に入りつつある。当社は、今年中に人手不足が概ね解消し、その後、賃金上昇率はインフレ率2%と整合的な水準まで低下していくと予想している。今年中にもFRBが利下げに着手する可能性は高く、インフレ動向を確認しながら、ゆっくりとしたペースで利下げを進める見通しである。

 一方で、労働需給ひっ迫解消が急速に進み、失業率が急上昇し始めることがリスクとなる。ただ、家計の資産状況は全体として良好で、米経済の柱である個人消費の大幅な落ち込みは避けられるだろう。景気後退の懸念は引き続き小さく、ソフトランディング実現の可能性は高い。