3度の倒産危機が生んだ、在庫を利益に変えるクラウドサービス

 実は瀬川さん自身、2012年にEC事業を創業以来、在庫管理に悩まされ、3度の倒産危機を経験している。

 瀬川さんは、新卒で大手IT企業に入社。営業としてノルマが課せられるようになると、毎晩一人で商談のロールプレイングを重ねた。顧客のあらゆる反応を想定し、その全てに対する切り返しを考えては、丸暗記して商談に臨んだという。

 地道な努力が実を結び、瀬川さんは入社1年で6億4000万円を売り上げるトップセールスに輝いた。1回の契約で数十億円が動くビジネス。インセンティブも凄まじく、瀬川さんは20代会社員としては破格の収入を手にすることになった。しかし……

「これで一体誰が幸せになっているのかと。確かに、ITを導入すれば業務は効率化できます。でも、大きな投資、大きなプロジェクトである分、プレッシャーがものすごく、お客さんも私たち営業もどんどん疲弊していきました。隣の席の先輩は、腎臓を悪くしてしまいました。一度しかない人生、誰も幸せを感じないような仕事に費やして、いいのだろうかと」(瀬川さん)

 答えを求め、瀬川さんは転職を繰り返し、どこへ行っても抜群の営業成績を残した。創業期に入社したスタートアップでは、「売り物なし、エンジニアなし、瀬川だけがいる状態」から3年で年商15億円の事業に育て、またあるSaaS企業では、1回の商談で2億円を売り上げた。それでも、「結局これって誰か幸せになっているの?」という疑問は消えなかった。自分が誰かの役に立っている手応えは、全くと言っていいほどなかったという。

 4社目で、若手エンジニアの誕生日にサプライズで風船ギフトを贈ったときのことだ。ダンボールから飛び出した巨大な風船に、社内は一瞬にして笑顔に包まれた。

「ワンフロア120人くらいでしたかね。みんなが風船を見上げて、楽しそうに笑ったり、歓声を上げて拍手したり。仕事はこうじゃないと、生まれてきた意味がないよなと思ったのです。次も決めずに辞めました。とにかくこの風船のように、お客さんも自分も幸せを感じる、そういう仕事がしたいと思いました」

 しかし、これがさらなる地獄の幕開けだった。