「人を幸せにできる商品を」起業して食器の通販を始めたが……

 2012年5月、瀬川さんは起業し、食器の通販を始めた。ITではない、人を幸せにできる商品を売りたかった。当時の瀬川さんは結婚したばかりで、妻は妊娠7カ月。昼間は美濃焼の窯元を開拓して回り、夜中に出荷準備という生活を続けるも、泣かず飛ばず。615万円あった資本金は、7カ月で200万円に。夫婦の月収は9万円にまで減り、ささいなことで喧嘩が絶えなくなったという。

「社長、会社を作って良かったですか?」。運転資金を工面するため、藁をもすがる思いで臨んだ信用保証協会の審査。一通り、型通りの質問が済んだあとで、瀬川さんは最後にそう尋ねられた。

 苦しい日々の中で、瀬川さんを支えていたのが顧客からのレビューだった。「これを読むと、起業して良かったと思えるんです。自分はこうして人に喜んでもらえる生き方がしたいから会社を作ったんだって」。自分が誰かの役に立っている手応えは、いつの間にかもうそこにあった。審査結果は保証希望の満額。事業はこれで息を吹き返し、急成長を果たした。

 瀬川さんは勢いに乗り、ベビー服のEC事業を立ち上げた。ここで直面したのが在庫管理の難しさだった。「なるべく在庫は持ちたくないが、欠品も避けたい。需要予測を間違えば、大量の在庫を抱えてしまう」。瀬川さんは悩まされ続け、3度の倒産危機を経験することになる。

需要予測は難しい!3度の倒産危機は意外なことが引き金に

 1度目の倒産危機では、欠品を恐れるあまり在庫を積み増すことが値引きの温床となり、利益率の低下を招くと学んだ。2度目の倒産危機では、売れ筋商品と死に筋商品の間に「最近売れてきた」「人気が下降気味」など、グラデーションがあることに気づいた。それらの商品をつぶさに調べていくと、そのほとんどが、以前は売れ筋だったことも分かった。

 小売では、新商品の販促に注力することで従来の売れ筋の販促が手薄になり、売上が徐々に低下してしまうことがある。瀬川氏は、グラデーションにある商品を特定し、販促することで、売上を維持・拡大できると考えた。のちの「FULL KAITEN」の開発につながる、在庫データ分析に目覚めた瞬間だった。

 3度目の倒産危機は、顧客満足度向上のため、ECサイトの送料無料ラインを7000円から2000円に引き下げたことで訪れた。客数が1.4倍になれば採算がとれる計算だったのだが、どう頑張っても1.2倍が限界だった。9カ月後、顧客にお詫びのメールを送って7000円に戻したのだが、その返信に瀬川氏は絶句した。「送料無料ラインを下げて買いやすくなってしまうのが嫌でした。このお店は送料無料ラインが高いから簡単に買えず、他の家の子と被らない服を購入できるのがうれしかったので」。顧客が求めていたのは安さではなかった。商売の奥深さを痛感したという。