2020年、創業60周年を迎えたフジッコは、大規模な経営改革「ニュー・フジッコ」をスタートした。不採算事業を整理し、惣菜、昆布、豆製品といったスター商品に絞って拡販。紙とハンコの撤廃、決裁のデジタル化、総額283億円に及ぶ設備投資などを実施した。2022年には、掲げた14の取り組みのうち12が完了か、完了見込みと順調に推移し、3.9億円分のコストカットを達成。「いい話」に聞こえるが、一番難しい課題が残っている。それは「社内にはびこる古い価値観や考え方をどう刷新するか」だ。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
苦労を尊ぶ滅私奉公から、
真に生産性の高い組織へ
「本当に変えたかったのは、60年で染み付いた昭和的な社風と文化です」――フジッコの取締役上席執行役員で、人財コーポレート本部長兼イノベーション担当の寺嶋浩美さんは、ニュー・フジッコの意義をそう語る。
「60年間、企業として順調に成長してきたこともあり、非効率的な働き方が見直されないまま残っていました。お客さまに喜んでいただくには、とにかく滅私奉公。合理的に仕事を進めるというよりも、苦労すること自体を尊ぶような空気がありました」
ニュー・フジッコは、老朽化した設備やシステム、業務プロセスを徹底的に見直すことで、真のラスボス――古い価値観がはびこり続ける要因を一気に削ぎ落としたとも言える。例えば、脱・ハンコとともに権限委譲を進め、多いもので15人の捺印が必要だった承認ルートもどんどん削り、部長権限で決裁できる金額を3倍に。意思決定の高速化を図った。